先祖返りの町作り
第185話 夢の摩天楼
セリアの結婚式から、2年が経過した頃。
機関車の研究も進み、
現在では実物大の試作一号機を使い、
問題点の洗い出しと改良が進んでいる。
また、最近になってセリアが出産していた。
生まれた子供は男の子で、
後にバートと名付けられた。
セリアに似て静かに泣く赤ちゃんだ。
(両親のどちらに似ても、
誠実で実直な青年に成長しそうですね)
私はそんな感想を抱いていた。
そして今日は、
ダイガクで定期の研究発表会が開かれている。
そのうちの一つの研究発表が始まってすぐに、
私はその内容に釘付けとなる。
「この新しい建材は、
主に石灰石と粘土から作られています。
これは時間を置くと固まる性質がありますので、
レンガの間に塗り付けますと、
しっかりと固定されるようになり……」
私はここまでの説明を聞いて、
すぐにピンとくるものを思い付き、
無意識の内にガタリと立ち上がってしまっていた。
「名誉学長? どうされたのですか?」
「す、素晴らしい……」
感動に打ち震える私の姿に、
会場中の視線が集まってしまっていたが、
そんな事に気を割く余裕は全く無かった。
「これは素晴らしい発見ですよ!!」
思わず大声で叫んでしまった私の勢いに、
発表者のキョウジュはのけぞりながら、
確認を取る。
「ど、どのように素晴らしいのでしょうか?」
「間違いありません! これは『セメント』です!
建築の歴史が変わる大発見ですよ!!」
「せ、せめんとですか?」
私はここでようやく、
困惑する発表者の様子に気付いた。
よくよく周囲を見渡してみれば、
皆一様に困惑が隠しきれていない。
ここで一つ深呼吸をして、
私は自分を落ち着かせた。
「すいません。
あまりに素晴らしい発見でしたので、
興奮が抑えきれませんでした」
「これの何が、そんなに素晴らしいのですか?」
「この技術を発展させると、
天高くそびえたつような、
巨大建造物も作れるようになります」
私は意識して気分を落ち着かせ、
なるべくまくしたてないようにしていた。
しかしそれでも興奮を隠しきれない私の様子に、
彼が若干引き気味になりながら発言を続ける。
「これに、
そこまでの強度はないと思うのですが……」
「ええ。ええ。
これ単体ではそうでしょう。
ですが、
これを材料とした『コンクリート』を作れば、
建築資材として非常に優秀なものになります」
「は、はぁ?」
「あなたも言っていた通り、
これ単体では、
レンガ等の石材の繋ぎにしか使えないでしょう。
ですが、
これに砂と砂利を混ぜると、
それらを強固に接合しますので、
とても頑丈な壁が簡単に作れるようになります」
コンクリートさえ作れたら、
様々なものの建築が容易になる。
単純に使っても、
将来的に建設が必要であると思われる、
第三街壁が素早く低コストで作れるようになる。
下水道施設も、
今よりももっと簡単に作れるようになる。
夢が広がる研究内容だ。
「そして、
その骨組みとして鉄を内部に埋め込むと、
『鉄筋コンクリート』も作る事ができます。
非常に頑丈な壁や床等が、
容易に作れるようになりますので、
天に届かんばかりの高層建築も可能になります」
鉄筋コンクリートがあれば、
高層ビルもいずれは作れるようになるだろう。
「ただ、
『セメント』や『コンクリート』の研究は、
奥が深いのです。
少し質が下がるだけでも、
強度に差が出てきてしまいます。
ですので!!」
私は思わずバンッと机を叩いて説明を続ける。
「私の持てる限りの権限とコネを最大限活用し、
巨額の研究費を用意して見せましょう!!
最優先研究課題として、
領主のイサミに私が直接ねじ込みますので、
頑張って研究を継続してくださいね!!」
話が突然大きくなってしまったため、
皆驚いていたが、
そんな事はささいな問題だ。
「さあ、
この都市をもっともっと発展させましょう!
目指せ『摩天楼』!
目指せ『コンクリートジャングル』!
なんとも夢が広がる研究ではないですか!!」
私のあまりにもなテンションの上がり具合に、
周囲はざわざわと、
落ち着きがなくなり始めていた。
「マテンロウ? じゃんぐる?
誰か意味を知っているか?」
そんな会話がヒソヒソと交わされていたが、
興奮しきってしまった私には、
もはや聞こえてはいなかった。