先祖返りの町作り
第186話 文明の父
それから、また年を3つ重ねた頃。
ようやく、蒸気機関の列車の開発が完了していた。
ターミナル駅となる予定のガイン駅は、
今後の事を考えて少し郊外に建設されていた。
第一街壁の内側の地価が高騰しすぎていたため、
商業地域の分散を図ったのだ。
駅舎は最新の工法である、
鉄筋コンクリート製であった。
まだそこまでの高層建築にはできなかったが、
地上3階建てのかなり大きな建物になっている。
試作機が度々走行していたこともあり、
列車のお披露目の際には、
それほどの混乱は起こらなかった。
しかし、鉄道の開通式典の折、
「このキカンシャには、
一切の魔力が使われておりません。
純粋な物理法則のみを使って動作しています」
という発表が行われた時には、
大きなどよめきが起こった。
「とても信じられない」
というのが、一般的な反応である。
この点は既に周囲から指摘されていたため、
蒸気機関の模型を用意して簡単な原理等を説明し、
間違いなく、
魔力を用いずに動いている事を証明した。
新しい技術には慣れっこになっていた、
ガイン自由都市の住民達にとっても、
これは驚愕の事実であったようだ。
魔力を用いずに、
これほど巨大な物体を動かそうとは、
今まで誰も思い付きもしなかったそうだ。
このニュースは大きな反響を呼び、
かなり長い間、国中を駆け巡る事になる。
この機関車の燃料は石炭であり、
現在の鉄道路線は、
ガイン自由都市と近郊の炭鉱のみを結んでいる。
ちなみに、この国には製鉄業があるため、
石炭は普通に利用されていた。
この新しい路線は、
今後を考えて複線になっており、
よりスムーズな石炭輸送を計画している。
なお、この炭鉱の村はダロス村という名前で、
そこの領主には無断で駅舎を建設している。
原油の産地であるセネブの町の領主一族が、
贅沢三昧な生活を送っている事から、
反対はしないだろうと判断したためである。
すぐにでも都市になると思われていた、
セネブの町であるが、
実際には町で発展が止まっている。
平民の移動を厳しく制限した影響が、
このような所にも出ていたのである。
しかし、原油の需要は伸び続けているため、
かなりの大金が、
セネブの町の領主一族に流れていた。
放蕩三昧の生活を送っても、
使い切れないほどのお金が手に入る状況は、
国中の貴族達のあこがれになっているらしい。
そのような状況であるため、
私達が駅舎を建設するのを、
ダロス村の領主は黙認していたのだ。
自分達もあのような生活ができると、
考えているらしい。
新しい原理で動く列車の登場により、
世間一般では、
「これはもう、新文明の幕開けなのでは?」
と、ささやかれるようになっていた。
後にこの新文明は、
「魔法カガク文明」と呼ばれるようになり、
鉄道の開通日をもって始まったとされた。
魔力もーたーと蒸気機関の組み合わせによる、
新しい文明という認識のようだ。
私は新文明の立役者として、
「文明の父」と呼ばれるようになり、
大変名誉な二つ名が増えたのであった。