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先祖返りの町作り

第153話 古代の魔道具

それから年を2つほど重ねた頃。

あすふぁるとの道路の施設もかなり進み、
物流が活性化した事により経済も活性化し、
ガイン自由都市は、
さらなる好景気に沸き立っていた。

原油の産地であるセネブ村も開発が進み、
今では正式な町になっていた。

住民のために自領の開発を行う貴族がいたのかと、
私は感心しきりであったが、実際には、
自分が上位貴族に陞爵したかっただけの模様だ。

(まあ、動機が何であれ、
 平民のためになるのであれば歓迎ですね)

ガイン自由都市の発展に伴い、
周辺地域との物流も活発化したため、
一大経済圏としても認識されるようになっていた。

そんなある日。

領主館の執務室で領主業務を手伝っていると、
官僚の一人が慌てた様子で飛び込んできた。

「たたたた、大変です!
 りょ、領主様と初代様に、
 お、お、お客様です!!」

「どうしたんです? そんなに慌てて。
 まずはちょっと、落ち着いてください」

私はそう言うと、
備え付けてあるグラスに水を注ぎ、
彼に手渡した。

それを一気に飲み干した彼は、
少し落ち着いた様子で語り始めた。

「領主様と初代様にお客様です」

「今日の予定に来客はなかったはずですが……」

私が少し怪訝な表情になりながらそう返答すると、
彼はその理由を語り始めた。

「古代魔法文明時代の魔道具を発見したので、
 ガイン家に買い取ってもらいたいそうです」

そうすると、リョウマはガタリと立ち上がり、
思わず彼を叱責する。

「なぜそれを先に言わないのですか!
 大おじい様、行きましょう!!」

そして応接室に二人で向かうと、
そこには、黒髪で青い瞳の、
落ち着いた雰囲気の男性が、
静かに座って待っていた。

「お待たせして申し訳ありません。
 私が領主のリョウマです」

「私がこの領地の相談役のヒデオです」

私達がそうやって自己紹介をすると、
彼も立ち上がって挨拶を始めた。

「いえ。私も突然押しかけましたので、
 お気になさらず。

 私が冒険者のケントです」

そして全員が席に着いたタイミングで、
リョウマが本題を語り始めた。

「なんでも、
 ガイン家に買い取ってもらいたい、
 古代の魔道具があるのだとか。

 しかし、当家では、
 王家ほどの高値では買い取れませんよ?」

ケントさんは分かっていますと言いながら、
懐から小型の魔道具を取り出した。

大きさ等から、
後期古代魔法文明時代のものと思われるそれは、
破損している部分が多いが、
ディスプレイらしきものと、
ダイヤル式のつまみがついていた。

(携帯ラジオかMP3プレイヤーと、
 いったところでしょうか?)

私はそんな感想を抱いていた。

そんな中、
ケントさんが静かに事情の説明をする。

「これを発見した時は、私も大喜びでして。
 早速王家に売りに行こうと思ったのですが、
 移動している途中で気付いたのです。

 これを王家に売ってしまうと、
 あの忌々しいお貴族様達が、
 我ら平民を従えるための力になってしまうと。

 それだけは嫌だったのです」

領主のリョウマが、
なるほどと言って頷きながら交渉を始める。

「予算の使い道は、
 事前にあらかた決まっているのです。

 ですので、領主といえども、
 すぐに自由に動かせる金額は、
 それほど多くはありません。

 ですから、
 一週間ほど時間をいただけませんか?」

ここで、私がもう少しフォローを入れる。

「その間の宿泊施設は、
 ガイン家で用意しましょう。

 いくばくかの遊興費もお渡ししますので、
 しばらく観光でもして、
 待っていていただけませんか?」

そうすると、ケントさんも納得した様子で、
頷きながら了承してくれた。

「それで構いません。
 私も平民文化の中心地と言われるこの都市を、
 ゆっくりと観光してみたかったので」

そして一週間後。
予定通りの時間に再会談が始まった。

「これが、当家が今用意できる精一杯です。
 ご確認ください」

リョウマが金額の書かれた紙を手渡した。

それを確認したケントさんは、
少し驚いた様子で確認を始める。

「思っていたよりもかなり多いのですが、
 大丈夫なのですか?」

リョウマが頷きながら返答する。

「ええ。各部署の予算を、
 少しずつ削ってかき集めました。

 ですので、現時点ではこれが限度です。

 来年度の予算編成まで待っていただけたら、
 もう少し用意できるのですが……」

「いえ。これで十分です。
 その代わり、
 一つだけ条件を飲んでいただきたい」

ケントさんはそう言うと、
私の方を見つめながらその条件を語る。

「この魔道具で得た知識を、
 私達平民のために使う事を、
 約束して欲しいのです」

私は大きく頷きながら、約束を結ぶ。

「分かりました。では、こうしましょう。
 この魔道具で判明した内容を、
 私が本にまとめて一般販売します」

「それで構いません。期待してますよ。
 魔道具の父にして、本の父さん」

そう言ってケントさんは笑顔になった。

私達3人は握手を交わし、
古代の魔道具と金貨の入った袋を交換して、
ここにその売買契約が結ばれた。

「さて、古代魔法文明の時代の魔法式が、
 いったいどのようなものなのか、
 興味が尽きませんね。

 これから、研究が忙しくなりそうです」

私はそうつぶやき、
私専用に用意されたダイガクの研究室で、
早速研究を始めたのであった。