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先祖返りの町作り

第131話 れんず

エストを笑顔で見送る事に成功してから、
1年後。

ようやく、
ガイン自由都市を囲う街壁が完成した。

レオンさんが建設を提案してから、
実に21年の歳月を必要とした、
一大プロジェクトが完了した。

発案者のレオンさんは、
既に59歳になっており、
その完成を見届けたタイミングで職を辞し、
隠居生活を始めた。

また、この頃、
カズシゲは23歳になっており、
ミリアさんという女性を妻として娶った。

ミリアさんは、少しおとなしい感じの女性で、
活動的なカズシゲにとてもお似合いの、
知的な女性だ。

ただ、この事で妹のリズが拗ねてしまい、
しばらくはお嫁さんにやきもちを焼いていた。

お兄ちゃん子のリズには悪いが、
リズも既に20歳になっており、そろそろ、
お婿さんを探して欲しいと思っている。

そして、この頃になると、
ダイガクで教えている内容が、
非常に高度である事が噂になり、

「ガイン公立ダイガクでは、
 お貴族様でも知らないような内容を、
 教えてくれるらしいぞ?」

という、評判になっていた。

貴族達は、そんな馬鹿なと一笑に付していたが、
それが事実である事を知っている私は、
肯定も否定もせずに、
あいまいに微笑んでごまかしていた。

私は学長として、いろいろと忙しく働いており、
そんな最中、レンズの研究者を探してみようと、
思い立った。

物理学部で屈折の法則は教えているため、
レンズについての基礎知識は既にある。

これを利用すれば、顕微鏡が作れるはずである。

顕微鏡が作れたならば、
病原菌も見えるようになるため、
効果的な薬の開発も容易になる。

ただ、レンズの焦点距離等は、
曲率半径と呼ばれるものから求められるが、
残念ながら、その細かい公式は、
忘れてしまっている。

よって、試行錯誤が必要になるため、
専門の研究者を募集して、
研究してもらう事にした。

そうして、採用した研究者は、
ルルさんという、小人族の女性だった。

外見は11歳ぐらいに見えるが、
立派な成人女性である。

黒髪をショートにした、
少しボーイッシュな素敵な女性である。

彼女を採用したのは、
実家がガラス細工職人であり、
ガラス加工の技術を最初から持っており、
手先が器用であったためである。

ルルさんが、独特の語尾で質問をする。

「学長先生。まずは、何から始めるッスか?」

「とりあえず、
 私が自作した研磨機の改良からですかね」

モーターの魔道具を使い、
酸化鉄を研磨剤に使って自作した、
簡単な研磨機の改良をお願いする。

現代の地球では、酸化セリウムという物質が、
研磨剤として主に利用されているが、
私はそれを、
鉱石の状態で見分ける事ができない。

そのため、大昔から利用されていた、
酸化鉄を用いたものを用意していた。

「私は、ガラス細工は専門外ですので、
 適当に作ったものですから、
 これの形状や、回転速度等、
 思い付いた改良案を教えてください。

 形状は、
 好きに変更してもらって構いませんが、
 回転速度等、
 魔法式の変更が必要な部分については、
 私に相談してくださいね」

「了解ッス」

そうやって、顕微鏡の研究を任せた。

また、
小さなものを拡大して見せるという意味で、
望遠鏡も同じ原理であるため、
その開発も同時に依頼しておいた。

これは少し先の話になる。

ルルさんは、
10年がかりでケンビキョウの開発を成功させた。

これを使えば、肉眼では見えなかった、
後期古代魔法文明時代の魔道具の魔法式が、
見えるかもしれないと、
気付いた貴族がいたようで、
王族が欲しがっているという、
噂が広まっていった。

しかし、私やガイン自由都市の住民達は、
完全に無視していた。

再び戦火を交える事になるかもと、
考える人もいたが、
ガイン自由都市軍の精強さが、
既に広く知られていたため、
心配するものは、誰もいなかった。

戦争がしたかったら、
いつでもどうぞというスタンスで、
皆待ち構えていた。

結局、戦争は起こらず、
どうやら、ガイン自由都市の販売店から、
平民を使って購入したらしいという噂が、
広まってゆくのであった。