先祖返りの町作り
第132話 確率論の特別授業
私はダイガクの学長として就任したため、
高等学校の時と同じように、
授業の進捗の確認も含めて、
時々、特別授業を行っていた。
これは、そんな特別授業の一幕である。
「学長先生。今日の授業内容はなんですか?」
最前列に陣取っている、
勉強熱心そうな女子生徒が、
好奇心に満たされた目で質問をする。
私は、それに微笑みを返しながら説明をする。
「今日は、確率の落とし穴についてですね」
そう言って、少し周りを見渡してから、
内容を語る。
「確率というものは、
数字から受ける印象以上に、
望まない結果が生じやすいというお話です」
私は、そのように前振りを述べてから、
持論を展開していく。
「例えば、
95%の確率で勝てる勝負があったとします。
この数字なら、まず間違いなく勝てると、
思いませんか?」
先ほどの質問をした女子生徒をはじめ、
いたるところで頷いている様子がうかがえる。
「こういう数字は、実は、
望まない結果の数字を分析した方が、
より正確な意味が分かります。
この場合は、5%ですね。
これを分数に直すと、いくつでしょう?」
私の質問に、
一番元気良く手を上げた男子生徒を、
私は指名した。
「100分の5ですから、20分の1です」
「はい。正解です。
皆さんは優秀ですから、
この程度は簡単ですよね。
つまり、20人に1人は、
負けてしまうという確率になります。
この教室の皆でこの勝負をした場合、
2人ぐらい負ける人が出てしまうという、
意味になります。
そう考えると、案外負ける事もある確率だと、
思えてきませんか?
自分がその2人になりうる数字だと、
思えませんか?」
私がそう述べると、頷いている生徒が多数見える。
先ほどの最前列の女子生徒は、
とても驚いた顔をしながら、頷いてくれている。
「この傾向は、繰り返し確率で遊ぶ、
ギャンブルのようなゲームでは、
特に顕著になります。
例えば、99%勝てる勝負があったとします。
これなら、100分の1しか負けませんから、
ほぼ確実に勝てる勝負でしょう」
生徒達は、皆真剣に聞いてくれている。
私はそれに手ごたえを感じながら、
続きを語る。
「この勝負を20回行った場合、
少なくとも1回は負ける確率は、
どのような計算式で求められますか?」
今度は、控えめに手を上げている男子生徒を、
指名した。
「1 - 0.99の20乗です」
「正解です。やはり、皆さん優秀ですね」
私は、微笑みを絶やさないように注意しながら、
結論を述べる。
「これを手計算で求めるのは大変ですから、
デンタクの魔道具を使って計算しました。
それによると、この値は、
約0.182となります。
つまり、確実に勝てるはずの勝負で、
実に2割近くも負けてしまうという、
計算になってしまいます」
驚いている顔をしている生徒達を、
私は頷きながら見渡し、
結論を述べる。
「このように、確率の数字は、
自分にとって不利な方を、
詳細に検討すると、
より正確な意味が判明します。
皆さんも、確率で物事を考える際は、
その表面的な数字だけを見るのではなく、
裏側の意味するところを、
きちんと判断するように心がけてくださいね」
この日の特別授業は、
生徒達の受けがとても良かったため、
キョウジュ達に頼まれて、
毎年の恒例行事として、
組み込まれる事になったのであった。