Novels

先祖返りの町作り

第129話 ダイガクの開校

メイが旅立ってから、4年が経過した頃。

エストは既に70歳になっていたが、
私との約束をけなげに守り、
健康管理に気を配っているため、
まだまだ元気に頑張ってくれている。

この国では、70歳を迎えられる人の割合は、
そう多くはないため、
その誕生日を、家族で盛大に祝った。

日々努力を重ねるエストを見ていると、
感謝の気持ちから、
眼がしらが熱くなってくるが、
エストが望んだのは、笑顔での見送りだ。

そのため、私は、決して涙は見せなかった。

あの大切な約束を守るため、私は、
エストが旅立つ日のための、
心の準備を進めている。

そして、この頃になって、
ようやくダイガクの設立準備が全て終わり、
開校にこぎつけた。

今日はその開校式であり、私は学長として、
これから演説を行う。

私は、できるだけ優しい口調を心掛けながら、
入学生達に語り掛け始める。

「皆さん。ご入学おめでとうございます。
 私が学長のヒデオです」

私はこの都市では有名人なためか、
学生諸君は、
熱心に聞き耳を立ててくれている。

「皆さんは、この新たにできた最高学府である、
 ガイン公立ダイガクの学生になり、
 勉学に励むかと思います。

 そんな皆さんに、
 少しだけアドバイスするとすれば、
 以下のようになります。

 知識とは強力な武器であり、大切な財産です」

私は少し間を開け、感触を確かめながら、
演説を続ける。

「例えば、契約に関する、
 この都市の条例の知識があれば、
 一方的に不利な条件で、
 契約を結ばされる事がなくなるでしょう。

 そして知識は、なにものにも奪われません。

 例え、火事で焼け出されたとしても、
 盗賊に身ぐるみはがされたとしても、
 頭の中までは、決して奪われません」

私は少し、学生達を見渡す。
皆真剣に聞き入ってくれているようだ。

「首から上さえ無事なら、
 食い扶持を稼ぐ方法は、
 いくらでもあるのです。

 学校の先生や、
 このダイガクでの研究者、
 あるいは、薬を処方する医者等、
 できる事はいくらでもあるのです」

そして、私は、
一番伝えたかった主張を述べる。

「これからは、皆さんで切磋琢磨して、
 この大切な財産を、より大きく、
 より確固なものへと、
 育てていってくださいね。

 人は知恵ある生き物です。

 ですから、人は、一生勉強すべきなのです」

私は、ここで一呼吸入れて、
新たな人材をダイガクに確保すべく、
主張を重ねる。

「皆さんの中には、将来はキョウジュとなり、
 研究者の道に進む人もいるでしょう。

 ですが、私は、あえてこの言葉を送ります。

 普通に優秀な人には、研究者は薦めません。

 奇人変人こそ、ガイン公立ダイガクでは、
 キョウジュとして募集しています」

私の言葉の意味が分からなかったのか、
場がざわつき始めた。

私はそれが収まるのを少し待ち、
その真の意味を語る。

「少しだけ考えてみてください。

 普通の考え方しかできない人は、
 普通の研究しかできません。

 しかし、他人とは違う独特な考え方をする、
 変人であれば、
 独創性溢れる研究ができると、
 思いませんか?」

私の言葉に、頷いている人も現れ始めた。

「ですから、このダイガクには、
 自己推薦入試制度も設けています。

 我こそは自他共に認める、
 変人であると考えている方は、
 ぜひとも、この制度を利用してください。

 私とキョウジュで面接をして、
 独創的な研究者に、
 適正があると判断した人には、
 入学試験を免除しますので」

このダイガクは、最高学府の名に恥じず、
入試の競争率は熾烈を極めた。

それが、変人であれば免除されると、
発表されたのである。

そのざわめきは、会場を通り越して、
外で待機しながら聞いていた様子の、
父兄達にまで広まっていった。

私はこうして、演説を終えたが、
その最後の発表は、
とてもショッキングなものだったらしく、
司会者が場のどよめきを抑えるのに、
とても苦労していた。

このニュースは、
瞬く間にガイン自由都市を駆け巡り、
この次の年には、個性豊かな人材が多数、
自己推薦入試を利用してくれるように、
なるのであった。