先祖返りの町作り
第100話 豆乳美人
これは、島の里の皆に、
トウフ作りを順番に教えていた頃の話である。
クリスさんは、いつものように、
私に付いて来ていた。
彼女の中では、これはデートになるらしい。
そうやって、トウフ作りを教えていると、
クリスさんがある質問をする。
「ヒデオ様。このトウニュウというものは、
もしかして飲めるのですか?」
私は頷いて肯定する。
「ええ。味は好みもありますが、
私は美味しいと思います」
そして、トウニュウの豆知識も伝える。
「トウニュウには、
大豆『イソフラボン』という物質が、
多く含まれていて、美肌効果がありますから、
私の故郷では、
若い女性の中には、好んで飲む人もいましたね」
「それは良い事を聞きました。私も飲みますね」
「いえ。できれば、クリスさんにだけは、
あまり飲んで欲しくないですね」
クリスさんは、目をぱちくりとさせて、
私に質問をする。
「それはなぜですか?」
「これ以上、
クリスさんが美人になってしまいますと、
私は、その……」
私は女性に何を言おうとしてるのか、
ここで初めて気が付き、
頬を染めてうつむいて、言い淀んでしまった。
そんな私を、クリスさんは、
下から覗き込むようにして、
じっと見つめて、続きを促す。
「わ、私は、その、ク、クリスさんに、
結婚を申し込む前に、
お、押し倒して、しまいかねないと、
危惧しているのです……」
顔がとても熱い。
たぶん、真っ赤になっているだろう。
その様子をじっと見ていたクリスさんは、
何度も頷きながら、宣言する。
「それはとても良い事を聞きました。
これからは、毎日トウニュウを飲みますね」
「え?」
私のお願いと正反対の結論に、
驚いて顔を上げると、
彼女は鼻を膨らませて、
また、ふんすーと、鼻息も荒く説明してくれる。
「既成事実さえ作ってしまえば、
私の勝ちです。
そして、この里でずっと暮らしましょう」
クリスさんの、
あまりにもなアグレッシブな発言に、
私はこのままでは、
本当に既成事実を作ってしまいかねないなと、
心の警戒レベルを上げる事にした。
私は、できるだけ紳士であろうと、
心に誓った日であった。