先祖返りの町作り
第95話 塩田と綿花畑
明けて翌日。
クリスさんに朝食に誘われたので、
一緒に食事を楽しんだ。
今日はどこを見て回ろうかと、考えていると、
クリスさんの方から質問してきた。
「ヒデオ様。今日はいかようにして、
お過ごしになりますか?」
「そうですね……」
私は顎に手を当て、少し考えてから返答する。
「そういえば、この島は王国とは、
ほとんど交流がないように見えます」
「そうですね」
「では、塩はどうやって入手しているのです?」
クリスさんは、目をぱちくりとさせて、
当たり前の事として教えてくれた。
「海があるので、自分達で作っております。
森の里では違うのですか?」
私は一つ頷いてから、答える。
「ええ。塩や布、鉄製品等は、
里に来る行商人と取引しています」
そして、辺りを見渡してから、
この里には鉄製品がない事に気付く。
「そういえば、この里では鉄製品を見ませんね」
「私達では作れませんから。
この里では、黒曜石から作った、
ナイフや包丁が使われております」
クリスさんは、続けて、
行商人との取引の様子を尋ねる。
「森の同胞達は、どうやって、
鉄製品を買っているのでしょうか?」
「魔力を込めた魔石と交換しています」
それからクリスさんと会話した結果、
この島は、それなりの広さはあるが、
魔物はあまりいない様子だった。
そのため、ごく小さい魔石しか取れず、
私の里のように、魔石を輸出するのは難しい、
という結論になった。
「布はどうやって、手に入れているのですか?」
「綿花畑で育てた綿花から、
木綿の布を作っております」
「では今日は、塩を作っている様子と、
綿花畑を見せていただけませんか?」
そして、またクリスさんが直々に案内してくれて、
製塩業の様子を見に来た。
「あれは、もしかして塩田ですか?」
「ええ、そうです。
ああやって、
天日と風で水分をある程度飛ばしてから、
煮詰めて塩を作るのです」
そして、クリスさんはこちらに振り向き、
素敵な笑顔で、私をほめる。
「ヒデオ様は森のご出身なのに、
塩田の言葉とか、よくご存じですね」
「王国南部の製塩業を、
見学した事があったのです」
そして、製塩業の様子を見て回り、
私は感想を述べる。
「しかし、興味深いですね。
この島と王国は、
ほとんど交流がないはずなのに、
製塩業の手法は同じものです」
もしかすると、過去の大陸統一国家時代や、
古代魔法文明時代には、もっと交流があり、
その過程で製塩業も、
伝わったのかもしれないなと、考えていた。
「では、次は綿花畑へご案内しますね」
そういって案内された綿花畑は、
思っていたよりも本格的な、
畑が広がっていた。
「すごいですね。
これは、私の里では作れないものです」
「そうなのですか?」
「ええ。私の里では、畑を作る技術は、
最初から発明されていないか、
失われてしまっているのですよ」
そうやって、クリスさんと一緒に、
島の生活を見て回っているうちに、
数日が経過し、
だんだんと帰還する予定の日が、
近付いて来ていた。