先祖返りの町作り
第93話 クリスさんとの出会い
それからしばらくが経過し、
私は王国南西部にある、
エルベという漁村に到着した。
それから、
村の漁師に頼んで小舟を出してもらい、
島アルクの里の島へと足を踏み入れた。
そうすると、
近場で投網漁をしていた島アルク族の男性に、
驚いた顔で話しかけられた。
「あなた様は、もしかして、
森の祭司長様ですか?」
私は頭を振って否定する。
「いえ。私の里の祭司長様は別の女性です。
私は祭司と呼ばれています」
「なんと。森の同胞の里には、
先祖返り様がお二人もおられるのですか。
それは、うらやましい事です」
「ただ、私の里でも、
先祖返りが二人同時にいる時代は、
かなり珍しいようですが」
私がそう返答すると、
「ぜひとも我々の里に、
滞在していただけませんか?」
と言われたため、
最初からそのつもりだと説明した。
そうすると、
まずは祭司長様に紹介にしますと言われ、
彼の案内で島アルクの里へと向かった。
初めて入った島アルクの里は、小屋の作り等、
私の里と同一な部分も多かったが、
ところどころで、
魚の干物を作っている様子も、見受けられた。
この里では、どうやら、
食料を保存しておくという習慣があるらしい。
途中、私を見かけた里の住人が、
全員驚いた顔をしている。
私を案内している彼が、その全員に知らせる。
「これから、このお方を紹介するので、
里の皆に連絡して、中央に集まるように」
そう繰り返しながら里を進み、
中央部にある、
他より少しだけ立派な作りの小屋へと到着した。
「祭司長様、ロクスです。
珍しいお客人をお連れしました」
そして、小屋から出てきた先祖返りの女性は、
絹のような金髪に青い瞳で、
抜けるような白い肌の美しい人だった。
(これぞ正にエルフ、といった感じの女性ですね)
私が思わず見とれていると、
ロクスさんからの紹介が始まった。
「祭司長様、こちらは森の同胞の祭司様です。
しばらく我々の里に、
滞在していただけるようですので、
私は里の皆に、
宴の準備をするように伝えてまいります」
私がまじまじと見つめていると、
島の祭司長が、恥じらうようにして語り始めた。
「あの、私の顔に何か付いていますでしょうか?」
私はそこでやっと我に返り、自己紹介を始める。
「これはすいません。島の祭司長様。
あまりの美しさに、
思わず見とれてしまいました。
私は森の祭司です。
しばらく御厄介になりますので、
よろしくお願いします」
私がそう言うと、島の祭司長は、
うつむき加減で頬を染めながら語った。
「まあ。森の祭司様はお上手ですね。
私はこんなにも白い肌で、
髪の色も瞳の色もありふれたものですのに」
「人の美醜の判断は、
地域によっても異なるものなのですよ?」
私がそう説明すると、島の祭司長は、
少し驚いた顔で確認を取る。
「そうなのですか?」
「ええ。失礼かもしれませんが、
私の里でも、
私や島の祭司長様のような顔は、
ありふれたものではあります。
しかし、
私は王国に住んでいる時間が長かったせいか、
王国の価値観に、
だいぶ染まってしまっているようです」
「では、森の祭司様も、
王国ではモテるのでしょうか?」
島の祭司長は、少し不安げな様子で尋ねた。
「若い頃には、そのような時期も、
あったような気がしますが、
さすがに最近では、
寿命が違い過ぎるのが分かったのか、
全くモテませんね」
私がそう返答すると、島の祭司長は、
少し安心したような様子を見せる。
私はここで、ある事を質問してみる。
「ところで、島の祭司長様。
あなたには、
自分で付けた名前があるのですか?」
目をぱちくりとさせて、彼女は答える。
「それはございますが、
なぜ、そのような事をお聞きに?」
「祭司長様とお呼びしますと、
私の里の祭司長様と、混同しそうだからです。
ですので、もし良ければ、
名前で呼ぶ許可をいただきたいのです」
私がそう言うと、彼女は輝くような笑顔で告げた。
「そのようなうれしい提案をされたのは、
初めてでございます。
私の名前はクリスと申します。
私も、森の祭司様を、
お名前でお呼びしてもよろしいですか?」
私も笑顔で頷き、名前を告げる。
「もちろんです。クリスさん。
私の名前はヒデオといいます」
「では、ヒデオ様。
これから、末永く、よろしくお願いします」
クリスさんは、なぜか、
「末永く」の所をかなり強調して、挨拶を終えた。