先祖返りの町作り
第42話 幸せな日常、再び
それから1年ほどが過ぎた。
今は私の自宅で、
エルクとルースと、一緒に食事をしている。
元から仲の良かったこの3人ではあるが、
この1年で、一番の親友になっている。
「このお肉、美味しい!」
「柔らかくてうまいな。
ヒデオ、これ何て料理?」
「これは、『ハンバーグ』と言います」
ソースのレシピが分からなかったため、
適当に味付けしたものだ。
私としては、まだまだ不満な味なのだが、
二人には好評なようだ。
なぜこんな事をしているのかというと、
新しい魔道具の市場調査も兼ねている。
なんとなく、
(ミキサーがあれば、ひき肉が作れるので、
ミキサーの魔道具が欲しいですね)
と思い、昔のツテを利用して、
ルツ工房に作ってもらっていたのだ。
ただ、この世界では、魔道具は高価だ。
「みじん切りが簡単にできる程度のために、
わざわざ魔道具は購入しませんよ?」
そこを指摘された私は、
渡された「みきさー」の魔道具の試作品を使い、
有用な使い方をプレゼンするために、
新作料理を開発中だ。
その第一弾がこの「はんばーぐ」で、
今二人に試食してもらっている。
この世界の常識に、すっかりなじんだ私は、
無理に異世界の料理を広めようとは、
思わないが、
私の食生活のためにも、
もうちょっと開発してみたい。
(いつかは、生姜焼きを作りたいです)
そう思いながら、
自家製の味噌の研究もしている。
そう、味噌である。
実は王都までの護衛依頼を受けた時に、
露店で偶然に大豆を発見していた。
この国での大豆は、家畜のえさとの認識のようで、
不作の時であれば食べるが、
無理してまでは食べないそうだ。
(大豆があれば、時期によっては、
枝豆も食べられます)
と思った私は、
大豆を栽培している付近の農家を調べ、
季節を待っている。
味噌の製造工程は簡単なのだが、
材料調達の段階で躓いている。
味噌の自作に必要なのは、大豆、麹、塩である。
このうち、麹が問題だ。
前世であれば、種麹屋から簡単に購入できるが、
そんなものは、もちろん存在しない。
麹はカビの一種であるため、
パンに生えたカビを採取し、
今はそれを増やしながら実験中である。
食中毒が怖いので、慎重にやっている。
19歳になったルースは、
だんだんとあどけなさが抜け、
美しく成長している。
いつも3人で、あちこち遊びに行っているが、
傭兵団の仲間達は、ある事を予想して、
賭けをしている。
私とエルクのどちらが、
ルースを射止めるかというものだ。
以前であれば、私は即座に否定しただろう。
「私にそんなつもりはありません」
と。しかし、否定できずにいる。
年を取らない私では、女性を不幸にする。
重々分かっているが、どうしても否定できない。
私には恋愛感情がないと思っていたので、
私が一番驚いている。
私は結婚する事は、ないだろうが、
(せめて、もう少しだけでも、
この関係を続けたいですね)
と思って、ルースとの微妙な距離感に、
いつも困惑している。
ルースは魔導士である上に、
私から見ても才能の塊だ。
「魔法について、もっと教えてちょうだい」
そう頼まれた私は、
時々、自宅に招いて教えている。
異世界の知識満載の、
私のオリジナル魔法を教える事は、
自重しているが、
魔法式の内容を改良する方法は、
少しずつ教えている。
最近では、文字と算数も、
エルクとルースに教えている。
里では誰も興味を示さなかった、文字ではあるが、
二人は都市に住んでいるため、
必要性が理解できるのか、
熱心に勉強している。
「ルース、りばーしやろうぜ」
何度も訪ねて来るうちに、すっかり、
勝手知ったる我が家になっていたエルクは、
自分で、私の手作りのリバーシのセットを、
持ってくる。
私は既に十分なお金を持っているので、
これで商売しようとは、考えていないが、
個人的な娯楽の一つとして、作っていた。
ただ一つ誤算だったのは、私は強過ぎたようで、
早い段階で相手にされなくなり、
今では、幼馴染コンビの、
お気に入りの遊びになっている。
(3人で遊べる、トランプでも作りますか)
ふと考えた。
この国の羊皮紙では強度が足りないため、
トランプには向かないが、
木札で代用すれば良いだろう。
数が必要なため、
木工職人に発注する必要があるだろうが、
私の財力であれば、
その程度の大量発注は何ともない。
3人で仲良く大富豪で遊ぶ姿を思い浮かべ、
ほっこりしながら、
リバーシの対戦風景を眺める。