先祖返りの町作り
第22話 親方
溢れるやる気と決意を胸に、
ルツさんの工房の扉を開ける。
「すいません。
どなたかいらっしゃいませんか?」
「おう。何だ、アルク族とは珍しい客だな。
何の用だ?」
ルツさんは、
立派なひげを蓄えた強面であったが、
声と顔のイメージから来る、
頑固おやじの印象とは違い、
体つきはちょっと華奢だ。
「弟子入りさせてください!!」
「帰れ。そういうのは、およびじゃない」
取り付く島もない。
そう簡単に弟子入りさせてもらえるとは、
思ってはいないので、
この程度ではめげない。
「お願いします!
雑用でも何でもしますし、
給料もいりませんから!」
土下座する勢いで、腰を折ってお願いする。
「そういう事じゃないんだがな。
給料もいらないって、
お前、どこかの金持ちのボンボンか?
そんな軟弱なやつは、もっといらん」
「いえ。私はど田舎からのお上りさんです。
ただ、生活費を稼ぐ方法には、
心当たりがあります。
魔石を売って、
生活費に充てようかと思っています」
私は魔石の入った袋を触る。
「はぁ……。
お前さんは確かに田舎者のようだな。
たくさん魔石を持っているようだがな。
この都市にはな、
森アルクの良質な魔石が、
出回っているんだよ。
町アルクの魔石程度では、
小遣いにしかならん。
悪い事は言わん。田舎に帰れ」
森アルクの魔石と聞いて、少しニヤリとする。
(私の魔石は、さらに高級品ですよ?)
「私の作った魔石は、
知り合いの商人に聞いた話では、
もっと高値で取引されるようですので、
ご心配には及びません」
魔石を一つ取り出して見せる。
そうすると、目を見開いたルツさんは、
驚愕の表情を浮かべる。
「何だ、その輝きの魔石は!
まさか、噂に聞く上位アルクの魔石?
いや待て。お前さん、
さっき作ったって言ったよな?
まさか……。これ、作れるのか?」
なんだか悪い予感がする。
(また認識のズレを感じますね。
常識の違いがありそうです。
これは、素早く修正しないといけません)
そう思い、しばらく会話した結果、
衝撃の事実が発覚した。
私や祭司長が作る魔石は、その輝きから、
もはや魔力の供給源としては扱われず、
宝石扱いのようだ。
希少さゆえに、
税金で取り立てられる、交易ルート上の領主と、
王族くらいしか入手できないと、言われており、
もし市場に出せば、最低でも小金貨、
おそらくは、大金貨が必要になるほどらしいが、
そんなものを、
平民街で取り扱った事が、貴族にばれたら、
簡単に物理的に首が飛ぶ。
それから気を取り直して、
根気強く交渉した結果、
私の魔石をルツさんに年に一個だけ収める事で、
弟子入りを許可してもらった。
何でも、商品に使う事はできないが、
貴重な研究素材として使うようだ。
それ以上の数は、
怖くて持っていられないらしい。
私の持ち込んだ魔石は、
絶対に誰にも渡すなと、厳命されている。
これは後でアレンさんに確認した話だが、
私や祭司長の魔石は、
領主命令で指定された取引先にだけ、
おろしているようだ。
横流しでもすれば一発で首が飛ぶので、
ちゃんと守っていたようだ。
この都市で見た事がないから、
高額だろうとは思っていたようだが、
私同様、そこまでの価値があるとは、
考えていなかったとか。
ルツさん改め親方との取り決めでは、
私の扱いは次のようになった。
・私は内弟子の扱いになる。
・親方の家に住み、
雑用をこなしながら下積みを積む。
・衣食住は親方持ち。
・給料は出ないが、小遣い程度は支給する。
・休日は6日毎。長期休暇等は要相談。
私が一番こだわったのは、長期休暇の取得だ。
不定期でも良いので、里帰りに使いたい。
それ以外も予想以上の好待遇で、文句等ない。
私の魔道具職人へ向けての、道が始まった。