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先祖返りの町作り

第21話 モーター

寝ていても悪臭は軽減されないため、
意を決して都市に観光にでる。

どんな魔道具があるか、とても興味がある。

この都市は、
魔道具の聖地と呼ばれるだけはあり、
あちこちに魔道具店がある。

露店を冷やかしながら、
お目当ての魔道具店をはしごする。

(森の田舎者の貧乏人の服装では、
 高額商品を扱う、魔道具店に、
 入店を断られませんかね?)

そう心配していたが、
私の服装は、以前に取引して手に入れていた、
青い布で作った一張羅なせいか、
特に断られなかった。

ここまでに見た魔道具は、
思っていた以上に巨大で、
ごてごてと、不必要な装飾が多過ぎる。

(ドライヤーのような、
 家電製品を作って、大儲けしましょう)

等という甘い夢をみていたが、
そんなに簡単に稼げる商売は、
ないらしい。

価格も小金貨数枚程度で、
庶民では手に入らない、
と言うのも無理もない。

ふらりと入ったある魔道具店で、
隅っこに置いてある魔道具に、
私の目は釘付けになる。

そっちの方に歩いて行くと、
一つ手前に置いてある、魔道具にしては、
小型な道具の説明書きを見て、
さらに固まる。

一番隅っこのやつが本命だが、
まずはこっちの方だ。

「すいません。
 ちょっと使ってみて良いですか?」

店員さんに確認を取って、魔道具のボタンを押す。
小さな火種が出た。

前世のものより、かなり大きくて重いが、
これはあれだ。
まぎれもなく、使い捨てライターだ。

無駄な装飾がないため、
かなり武骨な感じがするが、
お値段も大銀貨8枚ぽっきりと、
魔道具にしては、破格の価格設定だ。

(そうですよ。こういうのがいいんですよ。
 生活を便利にする小道具こそが、家電です)

「この魔道具を作った、魔道具師の名前は、
 何と言うのですか?」

店員さんに説明してもらった内容によると、
これを作った職人は、ルツさんと言うらしい。

ただ、これはあると便利な魔道具ではあるが、
火種の魔法が使えるものは、一定数いるため、
コストパフォーマンスが悪過ぎて、
あまり売れないようだ。

そして、本命の魔道具に手を伸ばす。

試作品と、説明書きに書いてある、
小型の魔道具は、ディスプレイのためか、
スイッチが入りっぱなしで、
上部にある円盤が、くるくると回っていた。

そう、これはモーターだ。

たかがモーターと、馬鹿にするなかれ。
これは様々なものに応用できる、
アイデアの宝庫だ。

単純に使っても、
自動車や船のスクリューの動力になるし、
電気モーターを回せば、発電も可能だ。

大きな儲け話になりそうな、夢の小道具だ。

なるべく冷静さを装って、
店員さんに聞いた所、
これを作ったのも、ルツさんらしい。

何でも風の噂では、
借金が返せなくなった貴族が、
借金のカタに差し出した、
書物から流出した、
最新の魔法式を使った、試作品だとか。

質屋に無造作に並んでいた、
その本を購入したのが、ルツさんらしい。

ごく小さい範囲にしか影響範囲がないため、
軸を回す程度の事しかできず、
こうやって、円盤をくるくる回す程度の事しか、
できないそうだ。

この魔法式は、回転の魔法と呼ばれ、
新設された、
物理魔法にカテゴライズされるらしい。

(無属性魔法とは呼ばないみたいです。残念)

一人、前世のラノベの知識でツッコミを入れる。

(これを作ったのもルツさんですか。
 素晴らしい。

 ぜひとも弟子入りして、
 魔道具作りの技術を学びたいです。

 そうだ、私は魔道具職人になりましょう!)

私は新しくできた人生の目標に向かって、
店員さんに教えてもらった、
ルツさんの工房への道を歩く。

最初の予定では、
大都市で魔石を売って生計を立て、
本を買うというものだったが、
魔道具職人として稼いだ金でも、本は買える。

少し遠回りだが、
生計を立てる方法さえ確立すれば、
後は誤差だ。

冒険の最初の都市で、
いきなり腰を落ち着けるという、
英雄物語であれば、
許されざるストーリーだろうが、
私は英雄に等なりたくはないので、
気にしない。