先祖返りの町作り

第4話 人生の目標

それから翌日、現在13時過ぎで、
アレンさんは市を開いている。

「その魔石なら、3つで塩一袋ってとこだな」

「じゃあ、14個あるから、
　買えるだけ塩をくれないか？」

「了解。14割る3なので」

「塩4袋で、魔石の余りが2つですね」

文字を習った事で、
テンション高く取引を眺めていたら、
思わず会話に割り込んでしまった。

「その通り。……って、え？
　祭司の坊主は、割り算できんの？」

当たり前である。
ただ、誰から習ったかを説明できないので、
今まで黙っていただけだ。

（マズいです。突っ込まれたらマズいです）

素早くアレンさんに近づいて、耳元でささやく。

「今までたまに、余りをちょろまかしてたの、
　黙っててあげますよ？」

にっこり笑顔でささやくのが、
ポイントだと思いたい。
アレンさんは、
冷や汗を流しながらしばらく固まっていた。

アレンさんは一年ほど前に、
親父さんから行商を引き継いだばかりで、
今は取引先と信用を高める時期だ。

しかし、
あまり暴利をむさぼるような事でなければ、
特に問題視していなかった。

（ほのめかすような発言は、
　マズかったですね。

　むしろ私の方が、ボロが出そうなので、
　忘れて欲しいです）

しばらく黙って見ていると、
私が何も言わないのに安心したのか、
普通に取引していた。

やっと市が終わり、片付けも済んだようなので、
アレンさんに近付いて、話しかける。

「お疲れ様。アレンさん。お話いいですか？」

「ああ。坊主、さっきの話は……」

アレンさんは少し身構えたようなので、
安心させるべく言葉を続ける。

「ええ。分かってます。内緒にしておくので、
　これからも、
　外のお話をいっぱいしてくださいね」

「……恩に着る。

　しかし、まだ4～5歳にしか見えないのに、
　一瞬で割り算ができるとは、恐れ入る。

　商人のせがれでも、できないぞ」

いろいろ突っ込まれそうになったが、
行商人の取引を見て、計算を学んだ事にし、
九九も知らないのに、割り算ができるのは、
引き算を繰り返したからだと説明した。

異様に頭が良いと思われるのは、
おそらくは、先祖返りの特性だとして、
ごまかした。

アレンさんは、ニヤリと笑って話を続けた。

「見逃してくれたお礼に、いい事を教えてやる。

　祭司長様が魔力を込めた魔石は、
　とても質が良く、
　外では高値で取引される」

それは知っている。祭司長の魔石は、
里の一般的なものの、
だいたい5倍くらいで取引される。

「ここは、辺境の中の辺境だ。

　その上、質の良い魔石の一大産出地なので、
　魔石はここが一番安い。

　そして、魔道具の普及している、
　大都市に行くほど、
　もっと高値で取引される」

それも聞いた事がある。

「祭司長様の魔石を、都市部まで運ぶ、
　行商人になれ、という事でしょうか？」

「そうじゃない。もっといい方法がある」

アレンさんは、
それからの私の人生の方向性を決める、
大事な話をしてくれた。

「坊主は成人したら旅がしたいって、
　常々言ってるよな？

　だから、旅をする事になったら、
　王国の大都市を目指せ。

　お前も、上位アルクなんだから、
　いずれは、祭司長様と同じものが、
　作れるんだろう？

　魔石で商売すれば、
　すぐに本ぐらい買えるようになる」

（なるほどね。自分で作れば良いのですか。
　盲点でした）

魔石は近場で狩りをして調達すれば、
原価はゼロみたいなもの。

それでも、本が買えるほど稼ぐのは、
難しいかもしれないが、
コツコツやれば、不可能ではない気がする。

「ありがとうございます！　アレンさん！
　人生の目標ができました！！」

思わずうれしくなって、アレンさんに飛びついて、
顔をぐりぐりこすりつける。

私はまだ幼児なので、アブノーマルな絵面には、
ならないだろう。

第一目標は、祭司長と同じ魔石が、
作れるようになる事。
後は狩りで魔石が集めやすいように、
弓や魔法の腕を上げる事。
そして旅がしやすいように、
外の世界の情報を集める事。

（成人するまでは、まだ22年もあります。
　たっぷりと、準備に明け暮れましょう）

新たにできた人生の目標に向かって、
一人、決意する。