Novels

先祖返りの町作り(再調整版)

第227話 伝記本

 それから瞬く間に、4年の歳月が流れた。

 戸籍調査も完了したため、昨年には各地方の議会選挙が行われ、地方議員が選出されている。

 今年には、各地方の首長の選挙も予定されている。

 さらに来年には、国会議員の選挙も予定されており、3年後のガイン自由都市200周年に合わせて、大統領選挙も行われる予定である。

 そして、正式な大統領が選出され次第、新国家の樹立が宣言される手筈になっている。

 また、法整備もほぼ完了したため、司法試験も既に開催されている。並行して整備していた、警察や検察組織も出来上がっており、これで司法に関しては一区切りを迎えた。

 今後の発展を見据えて、各地に鉄道網や高速道路網の建設も進んでいる。

 ただ、これまでのように、建設のたびに測量を行っていたのでは効率が悪いと指摘を受けたため、国土地理院を新設し、この国の詳細な地図の作成も始まっている。

 また、交流電源から直流電流を取り出す変換回路の研究も完了しており、今は3か所で、新しい発電所の建設も始まっている。

 このように、あわただしく新しい国の形を整えていたある日。

 仕事が一段落した休憩時間に、法務大臣のバルトさんが雑談を始めた。

「しかし、このまま行くと、臨時ダイトウリョウには新しい二つ名が増えそうですね」

「そうなのですか?」

 バルトさんは力強く頷き、続きを語る。

「ええ。しかし、これで何個目の二つ名でしょうか?

 ええと。『耳長の悪魔』……は、カウントしないのでしたよね。

 『本の父』、『学問の父』、『魔道具の父』、『平民の守り手』……」

 私の二つ名を指折り数え始めたバルトさんに、私はストップをかける。

「ちょ、ちょっと待ってください。あなたの生まれるはるか以前の私の二つ名について、どうしてそんなにも詳しいのですか?」

 バルトさんは意外そうな顔をして、答えを教えてくれる。

「え? 臨時ダイトウリョウは、読書が趣味ですよね?

 最近、巷で人気の、あなたの半生を綴った伝記本は読んでおられないのですか?」

 私はその回答に、思わず頭を抱えそうになりながら、正直な気持ちを伝える。

「ああ。あれですか……。

 自分の事を、必要以上に美化して褒めちぎっている本なんて、恥ずかしさで悶絶しそうで、読んでいませんよ」

 それを聞いたバルトさんは、ニカッといい笑みを浮かべて、怖い話をしてくれる。

「それはもったいないですね。

 ちなみに、私は臨時ダイトウリョウと直接会話できる立場ですから、それだけでもかなり羨まれていますよ?

 飲み会の席では、臨時ダイトウリョウの日常ネタは、私の鉄板のネタになっていますから」

 私のプライバシーが駄々洩れである事実に、頭痛を覚えながら休憩時間を終えた。

 そして、また私達は、新しい国造りの仕事に戻ったのであった。