先祖返りの町作り(再調整版)
第225話 名字
それから、また2年の月日が流れ去った頃。
法整備もかなり進んだため、司法試験を開催する準備として、法科ダイガクを開校した。ちなみに、法曹一元の考え方を取り入れ、裁判官、検察官、弁護士は同一の司法試験で採用する事が決まっている。
本来であれば、各種法律の根拠となる憲法も制定したい。しかし、そこまではとても手が回りそうにない。そこで、イギリスのような、慣習法の憲法で良いかと考えている。
また、大統領が違法行為をした時のために、特別検察官制度も法整備した。
国会議員の過半数の議決で、特別検察官が任命される。その特別検察官が捜査した結果、違法行為が認められる場合は、大統領本人を起訴できる仕組みである。
そして、裁判所が違法行為を認定した時点で、大統領は失職する。その場合は、あらかじめ任命していた副大統領が昇進し、60日以内に大統領選挙を行う事が義務付けられている。
これらの準備に奔走していたある日。
戸籍調査を行っている部署の担当者から、質問を受けた。
「コセキなのですが、家族の単位がとても分かりにくくなっています。なにか良い案はありませんか?」
詳しく聞いてみると、この国の市民には、名字がない事が問題の根本であった。
これまでは、住んでいる地域を屋号として、名字の代わりにしていた。つまり、ガイン村のヒデオさん、のような呼び方をしていたのである。
しかし、今では市民の移動が自由になったため、出身地で管理していたのでは分かりにくいと言われたのだ。
そこで、私は名字を各自で名乗るように提案した。
そうすると、先ほどの官僚さんが、さらに質問を重ねる。
「各自で考えるとはいっても、地方では学校教育が始まったばかりです。そのため、自分では考えられない人も多いと思われますが」
私はそれもそうかと思い、別の案を提示する。
「それでは、各村の村長さんに決めてもらってはどうです?」
しかし、この意見も不評のようだ。
「人口が少ない村は、それで良いと思われます。しかし、家が多い村や町になると、一人で決めるのはさすがに無理かと」
そう指摘された私はしばらく考え、別の案を提示してみる。
「それでは、ご先祖様の名前二人分を繋げるのはどうです?
ガイン家に名字がなかったと仮定して、ユキムラ・ヒデオクリスとか、ヨシヒロ・ルースエルクのように名乗るのです」
この案は採用され、名字の作り方の手引書も合わせて作られる事となった。
こうしてこの国では、全ての市民が名字を名乗るようになったのであった。