先祖返りの町作り(再調整版)
第224話 ヒデオ暦
それから、しばらくが経過した頃。
ある日の閣僚会議の場で、思い出したように官僚の一人が質問を開始した。
「そういえば、臨時ダイトウリョウは、日付のずれない暦の研究をしていませんでしたか?」
私はそれに対し、正確な答えを述べる。
「私ではなく、ダイガクで研究してもらっていますね」
「それによると、一年は何日になるのですか?」
私はその質問に、簡潔に答える。
「およそ363.18日ですね」
質問をした彼は、それに少し驚いたような表情をしながら、疑問点を口にする。
「端数があるのですか?」
私はそれに頷きを返し、その理由の説明を開始した。
一日の長さは、この大地の惑星の自転周期によって決まる。それに対し、一年の長さは公転周期によって決まる。これら二つの運動に直接の因果関係はないため、きっちりと整数になる方が珍しいのである。
ちなみに、夜空に不規則な軌道を描く、惑う星と言う意味の単語は市民達の間でも既に知られていたため、この星の事を大地の惑星と命名している。
先ほどの質問をした彼が、続けて質問をする。
「そのような小数点以下が存在していて、どうやってずれない暦を作るのですか?」
私はこの点について、解説を始めた。
まず、今まで通り一か月を30日とし、12か月で一年を360日とする。
そして、4,8,12月を31日とし、一年を363日とする。
その上で、五年に一回をうるう年とし、5の倍数の年の2月を31日とする。
こうすると、一年平均で1/5日、つまり0.2日増える。
ここまでの調整で、一年は363.20日となり、誤差は一年で0.02日となる。
これで数十年はずれない暦となるが、もう少し調整を加えて、さらに正確性を増す事とする。
誤差0.02日というのは、100年経過すると2日進む計算になる。
そこで、暦の下二けたが00と50の年は、うるう年から除外する。
これによって、一年の平均が363.18日となり、数百年はずれない暦が完成するのである。
「まあ、これ以上正確な暦を作ろうと思ったら、もっと長い年月をかけて観測するか、観測技術そのものが向上しないと無理でしょうね」
私はこのように説明を締めくくった。
ちなみに、地球での一年の長さは、およそ365.2422日である。
そして、広く採用されている、グレゴリオ暦での一年の長さは、365.2425日である。
誤差はわずか0.0003日しかなく、計算上では、およそ3300年経過しないと、一日もずれない。
これほど正確な暦を、16世紀に制定していた事実は、驚愕に値する。
当時の研究者達に、私は最大限の賛辞を送りたい。
閑話休題。
一同は驚いた様子で、この話をずっと聞き入っていた。
「数百年経過しないと一日もずれない暦なんて、もう十分ですよ。ぜひとも、この暦をヒデオ暦として、正式採用しましょう」
私は暦の名称について、異議を唱える。
「長年にわたって観測してくれていたのは、ダイガクの研究者達ですから、ガイン公立ダイガク暦にしましょう」
しかし、この意見は全会一致で否決されてしまう。その名称では、長すぎて言いにくいというのが主な理由だ。
結局、この新しい暦は、正式な大統領が選出され、建国された時点で、ヒデオ暦元年とする事が決まった。
それまでは周知期間とされ、一般に告示されたのであった。