先祖返りの町作り(再調整版)
第216話 リスティン王国の終焉
ヴィジャス砦を陥落させた我ら主力軍は、この戦争の総仕上げとして、王都攻略を目指して進軍を続けていた。
最前列に装甲車部隊をズラリと並べ、空には熱キキュウ部隊を全機浮かべた状態で、ゆっくりとではあるが、可能な限り整然と進軍させていた。
「ヒデオ将軍。いつもにもましてゆっくりな進軍の狙いは、いったい何ですかな?」
皆不思議に思っていたようで、代表してゲイル将軍が質問を繰り出してきた。
「心を折るための演出ですね」
私は簡潔に答えを述べる。
「難攻不落で有名なヴィジャス砦ですら、二日と持たずに陥落させるだけの力がこちらにはあるぞと、誇示しているのですよ」
そう。これは一種の示威行動だ。
例えご立派な王城に籠城しようとも、我々には意味がないぞと脅しているのだ。そして、ゆっくりと喉元に迫ってゆく事で、真綿で首を絞めるように、プレッシャーを与え続けているのである。
「まあ、無駄かもしれませんが、心を折る事ができれば、無益な戦いをしなくても相手を下せますから。戦わずに勝てるのであれば、それが一番良いのですよ」
私はこう、説明を締めくくった。
そうすると、別の幕僚から思わぬ提案をされる事になる。
「なるほど。意図は良く分かりました。しかし、それでしたら、最も敵にプレッシャーを与えられる存在を忘れておられますよ?」
「ほぅ。それは何ですか?」
「ヒデオ将軍ご自身です」
「へ?」
私は思わずポカンとして、間抜けな声で聞き返してしまった。
彼らの言によると、一連の新兵器は確かに強力ではあるが、それら全てを作り出したのは、他ならぬ私自身であると指摘された。
そのため、味方からは軍神のごとくあがめられているが、敵にとっては、悪夢のような存在として認識されているらしい。
「だから、私が言ったでしょう? 王侯貴族達は、絶対に敵に回してはいけない相手に対して、喧嘩を売り過ぎたのですよ」
とは、ゲイル将軍の言である。
「ですから、ヒデオ将軍。あなた自身が神輿となって、そうですね。あの装甲車の上で存在を誇示してください」
思わず私の頬が、ヒクッと引きつる。
「いや……。あの、それはとても恥ずかしいので、できれば勘弁して欲しいのですが……」
私は歯切れも悪く拒否しようとした。
しかし、私が陳列されると、敵に対する威圧効果の他に、味方を鼓舞する効果も絶大だと、口々に説得を受けた。
(こ、これも仕事の内と割り切りましょう)
思わずトホホと言ってしまいそうな、心の内を無理やり押し殺し、黙って了承するハメになってしまった。
彼らの行動は迅速だった。
ただ、装甲車部隊内で、誰が私を乗せて運ぶかでモメにモメたそうだ。最終的には決闘騒ぎにまで発展しかけたので、私に直接決めて欲しいと言われた。
私は投げやりにその場でワシのクジを作り、抽選会を行う事を宣言した。
その方法はあまりにも、と苦情を言われたので、投げやりついでにヤサぐれながら、建前を述べる。
「一応、私は総大将ですからね。私が死んでしまうと敗北になってしまいます。ですから、最も幸運なものに守って欲しいのですよ」
こうして、どうでもいい争いは回避され、レーニという若い兵士が当たりクジを引き当てた。
そして、その日の内に、装甲車の上で皆に見えるような高さの椅子が取り付けられた。
私はそこに座らされ続けるという、羞恥プレイに耐えざるを得なくなった。なってしまった。
ことさらゆっくりと進軍する事を決めた、過去の自分の後ろ頭を、全力で殴り飛ばしてやりたい。
そして、1か月後。ようやく王都に到着した。
熱キキュウ部隊のいくつかにボウエンキョウを持たせ、偵察に出した。そうすると、明らかに弓の届く高度まで下りてきて、じっとボウエンキョウを使っている。
「あんな高度で大丈夫なのでしょうか?」
私はとても心配になったが、どの熱キキュウにも攻撃される事なく、無事に偵察任務を終えて帰還してきた。
そして、意外過ぎる結果が報告された。
「戦う準備をしているものは、誰もおりません」
「では、彼らは何をしているのですか? もしかして、降伏の準備ですか? それにしては、使者も来ていませんが……」
「それが、その……。酒宴を開いて、ドンチャン騒ぎをしているようにしか見えないのです」
これは、何かの罠かと疑った私は、さらに地上からも斥候を多数放った。
そうすると、事実誰も防具すらまとっておらず、すんなりと内部に潜入できたと報告を受けた。
実際に酒宴も開いていて、真っ昼間から大酒をあおっており、仮に罠だったとしても、あれではまともに動けないだろうとも言われた。
「これは、いったいどういう事なのでしょう?」
そうすると、王城で料理人として働いている市民と接触したものがいたらしく、内情を語ってくれる。
「それが、ヒデオ将軍の脅しが少々、その、効き過ぎたようでして。心を完全に折られて抵抗する意思を失い、貴族どもは現実逃避を開始したそうです」
「え? では、財産をまとめて、逃げ出す事すらしていないと?」
「はい。どうも、その気力すら、失っている模様です」
予想の斜め上の答えであった。
それでも私は念には念を入れ、空挺部隊から人を選りすぐって王城に向かわせた。空挺部隊にしたのは、彼らは本来、敵地のど真ん中に降下して戦う部隊だからだ。
なので、罠にはまって王城内で孤立したとしても、彼らであれば生還できるだろうと考えたのだ。
罠である可能性が完全には否定できないからと、至極真面目に説明したが、皆からは心配のしすぎだと笑われていた。
実際にその通りであったようで、誰一人抵抗するそぶりすら見せず、直前まで酒をあおって、そのまま捕縛されていったそうだ。
今は国王を含め、全員まとめて王城の地下牢に放り込んでいるらしい。
こうして、拍子抜けするほどあっけなく王都は陥落した。
この日、この時をもって、リスティン王国は終焉を迎えたのであった。