先祖返りの町作り(再調整版)
第215話 ヴィジャス砦陥落
おびき出した敵軍を殲滅した翌日。
主力軍の全軍をもって威圧するようにしながら、ヴィジャス砦の前に布陣した。
背面攻撃を仕掛ける方法の答えは、頭上にある。空に浮かぶ熱キキュウの群れである。
しかし、気球というものは基本的に風任せでしか移動できない。そこで、イジェクトの魔法開発でかつて使用した風魔法を応用した魔道具を搭載し、推進力にしていた。
ただ、人が乗るゴンドラ部分に推進機を搭載したのでは効率が悪い。そのため、気球部分の四方向に風魔法の起点を作っていた。
この構造にするためには、長い配線が必要となる。もし、まともに用意していたのであれば、恐ろしいほどの大金が必要だったろう。
しかし、合金を自作できる自分をフル活用し、相場と利益を完全に無視して、その問題を回避していた。
「大おじい様は、本当に手段を選びませんね」
ユキムラが、あきれ顔でそう感想を述べていた。
とにかく、このようにして準備した熱キキュウ部隊は、今回用意した新兵器の切り札である。
その切り札を、今、切る。
「熱キキュウ部隊、前進」
「熱キキュウ部隊! 前進開始!」
合図の太鼓と併用して、今回は複数の通信兵による手旗信号も加わる。これは、上空までは音が届きにくい事を考慮に入れたためである。
推進機の魔道具が起動され、ゆっくりとヴィジャス砦の真上へと向かってゆく、熱キキュウの群れ。
それを見た我が軍の兵士達から、歓声が上がる。
一方、ヴィジャス砦に陣取っている残り少ない貴族達は、固唾を呑んで見守っているようだ。
当然ながら、弓の射程のはるか上空を飛んでいるため、彼らになすすべはない。
そして、部隊の全機が所定の位置に到着したのを確認し、次の命令を下す。
「だいなまいと、投下」
「熱キキュウ部隊! だいなまいと投下開始!」
爆発するまでの時間を微調整できるように、少し長めの導火線を持つ、投下専用のだいなまいとが落下してゆく。
投げずに落下させるだけで良いため、大きさも通常のものより大型化しており、爆発力が増している。
砦のあちこちで爆発が起こり、騎士たちの阿鼻叫喚の声が、ここまで聞こえてくる。
そして、十分に時間をかけて、リスティン王国史上初の空爆を継続した後、次の無慈悲な命令を伝える。
「熱キキュウ部隊、射撃開始」
「熱キキュウ部隊! 射撃開始!」
ゴンドラ下部に用意されている矢間からえあがんを突き出し、一斉射撃が開始される。
ただでさえ残り少なくなっていた貴族達が、さらにバタバタと倒れ、削られてゆく。
そして、あらかた敵を掃討したのを見計らい、さらに次の命令を下す。
「『空挺』降下開始」
「はっ。クウテイ部隊! 降下開始!」
この日のために、厳しい訓練を突貫で積み重ねてきた、とっておきの空挺部隊が次々に降下を始める。
空に落下傘の花が咲き乱れる。
その様子に味方は勝利を確信し、敵は絶望している事だろう。
空挺部隊のえあがんには、近接戦闘も考慮して銃剣が装備されている。しかし、明らかに敵は戦意を喪失しており、おそらく出番はほとんどないだろう。
そして、壁の内側に次々と降下した空挺部隊は、速やかに門を開いた。
「前衛前進。砦を占拠せよ」
「前衛部隊前進! 砦を占拠せよ!」
悠然と進んでゆく、前衛のガイン自由都市軍の精鋭達。
念には念を入れて、不測の事態が発生した時の事まで考え、主力軍の最精鋭部隊を投入していた。
さすがにやりすぎかもしれないが、戦争というものは少しの油断で全てを失う、とても恐ろしいものだ。
慎重すぎるぐらい完璧に準備を怠らない事こそが、戦争においての勝利の方程式だろう。
砦に突入した部隊は、戦闘らしい戦闘もないまま、あっさりと砦を占拠した。
ここに、難攻不落を誇ったヴィジャス砦は、わずか小一時間ほどの一方的な攻撃で、あっけないほど簡単に陥落したのであった。