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先祖返りの町作り(再調整版)

第217話 臨時ダイトウリョウ

 王都を陥落させた我ら解放軍は、住民達による熱狂的な歓迎を受けた。

 そしてそのまま、解放軍も住民も区別なく、お祭り騒ぎを始めた。そのため、私は全軍に一週間の休暇を与えた。

 治安維持等に必要な最低限の人員を残し、できるだけ多くの兵士達に休暇を与えるようにと、指示を出しておいた。

 私も連日の疲れが溜まっていたため、率先して休暇としゃれこむ事にする。その際、私には国王の部屋が割り当てられていた。

「豪華過ぎて落ち着かないので、もっと質素な部屋に変更してくれませんか?」

 私はそうお願いしたが、全会一致で却下された。

 なんでも、最高司令官の私が質素な部屋に泊まってしまうと、部下達はもっと質素な部屋にしか宿泊できなくなってしまうらしい。

 それもそうかと思った私は、おとなしく国王の私室へと向かう。ホッとした事もあり、もう既に眠気がかなり強い。

 豪華絢爛な寝台にはかなり引いてしまうが、贅沢は言っていられない。

(しかし、里の掘立小屋に住んでいた頃は、まさか、こんなに豪華な部屋に泊まれるとは、夢にも思っていませんでしたね)

 思えば遠くまで来たものだと、そんな感想を抱きながら、あっという間に夢の世界の住人になっていた。

 そして翌日。

 完全オフとなった私は、久しぶりに王都の市場に出かけようと、王城を出ようとした。そうすると、たちまち市民達に取り囲まれてしまった。

 ここは貴族街で、かつての平民は、許可されたもの以外は立ち入り禁止であった。

 しかし、もうそんな事は関係がない。

 多数の市民達が貴族街に立ち入り、観光しているようだ。警備担当の兵士達が頑張ってくれているらしく、秩序だって観光をしており、貴族の屋敷を略奪するような不心得ものは存在しないようだ。

 そんな市民達であるが、出口に姿を見せた私の姿を見かけると、歓声を上げながら殺到してきた。

 中には、

「新国王陛下、万歳!」

 と叫んでいる市民もちらほらといる。私はそれに、苦笑を返しておいた。

 まあ、それは良いのだが、出口付近で既に身動きが取れなくなったため、慌てて王城内に逆戻りした。

「ううむ……。これでは、買い物にも行けませんね」

 しばらく考え、とりあえずの時間つぶしとして、王城内を見学して回る事にした。そうすると、図書室を発見したので、これ幸いと久しぶりの読書に没頭する事にした。

 こうして充実した休暇を過ごした。

 この休暇中には、フードで顔を隠してではあるが、何度か外出して、王都のお祭り騒ぎを見学する事もできた。

 十分に英気を養い、仕事モードに復帰した私は、早速今後の事について話し合うべく、会議を招集した。

 しかし、謁見の間で私を玉座に座らせた状態で会議しようとは、いったいどういう事だろうか。まあ、うすうすは分かっているが。

 とにかく私は強硬に反対し、会議室替わりの国王の執務室で会議を開いた。他にいくらでも広い部屋はあるので、そちらを使うように主張したのだが、どうしてもと言われ、そこは妥協した。

 その席で開口一番、ゲイル将軍が予想通りの願望を述べる。

「これで、ヒデオ将軍が国王様ですな! そうすれば、この国の全土がガイン自由都市のような発展を遂げるでしょう。いや、まっことめでたい!!」

 口々に祝福を述べ始める幕僚一同。

 私はその喧噪が収まるのを待ち、皆を見渡してから、はっきりとそれを否定する。

「申し訳ありませんが、私は国王になりませんよ?」

 その発言に、皆一斉にフリーズした。

 しばらくしてから、ギギギと音がしそうな動作で私に顔を向けたゲイル将軍が、まるで懇願するようにして叫んだ。

「そ、そんな! 今あなたに見捨てられたら、我々はどうなるのですか!!

 せっかく王侯貴族どもを駆逐したのに、それでは国中がバラバラになってしまう!

 各地で勝手に王を名乗るものが現れ、戦乱の時代になってしまいます!!」

 私は努めて冷静さを演出しながら、安心させるべく言葉を紡ぐ。

「安心してください。さすがに、ここで無責任に放り出すような真似はしません。

 ですが、私が国王になってしまうと、『市民』のための国家にはなるかもしれませんが、『市民』による国家にはなりませんよね?

 私はあの約束を、何があってもたがえるつもりはありません」

 そして、皆の顔を確認する。

 なおも不安がっている様子であるため、さらに言葉を続ける。

「国王にはなりませんが、『市民』だけの国、『共和』国を立ち上げるまでは、私は国の代表として、臨時『大統領』に就任します」

 それを聞いて少し安心した様子ではあるが、聞きなれない単語に戸惑っている模様だ。

 私を除けば最も高位のゲイル将軍が、代表して質問をする。

「ダイトウリョウとは、いったいどのようなものでしょうか? 国王とは違うのですか?」

 私はそれに頷きを返し、肯定する。

「ええ。国王は死ぬか位を譲るまではずっと国王ですが、『大統領』には任期があります。今の所、一期五年を考えています。

 そして一番の違いですが、血統では『大統領』に就任できません。

 成人した『市民』全員に、一人一票の入れ札を配布し、それに書かれた名前が最も多かったものが就任する仕組みにします」

 私がそう説明すると、ようやく安堵した模様だ。

「それでしたら、安心ですな。この国のシミンであれば、ヒデオ将軍以外の名前を書くものがいるとは、とても思えませんからな」

 と言って、ワッハッハと笑い合う幕僚達。

(まあ、立候補していない人物の名前を書いても、無効票になるだけなんですけどね)

 心の中でだけ、私は反論しておいた。