先祖返りの町作り(再調整版)
第205話 発火前夜
それから、しばらくが経過した頃。
54歳になっていたヨシツネは引退を決意し、31歳になっていたユキムラへと、領主を引き継いだ。
この時ヨシツネは、
「近頃、この国には不穏な空気が漂っている。大変な時期に差し掛かっているこの状況で、まだ若いお前に領主を引き継ぐのは、私も少し不安ではある。
しかし、これからは体力も必要になると判断し、私は引退を決意した。
私も大おじい様も全力でサポートするので、困ったらいつでも頼って欲しい」
と言って、ユキムラを激励していた。
事実、この頃には平民達の不満がかなり高まっていた。というのも、平民の傭兵達に取り締まりを任せていたのではらちが明かないと、ようやく気付いたようで、騎士団の動員を始める領主が増えてきていたのだ。
そのため、領地への出入りや焚書のチェックが厳しさを増してゆき、それに比例して平民達の不満が激増していた。
領主に就任したばかりのユキムラは、この難題に対処すべく、私とヨシツネを伴った状態で会議を始めた。
その席で官僚の一人が、報告を開始していた。
「このように平民の不満が各地で増大しており、もはや、いつ反乱が勃発してもおかしくない状態です」
ユキムラは、ここで私に意見を求める。
「大おじい様。何か具体的な対策はありますか?」
私は顎に手を当てて少し考え、返答する。
「そうですね……。幸いにして、第3街壁の建設も間に合いましたので、防御に関してはほぼ完璧でしょう。後は備蓄を今まで以上に進める事ですかね。
それと私の方で、何か新しい攻撃準備ができないか、持ち帰って考えておきましょう」
ここで、官僚の一人が思い切った提案を始める。
「あの。今はもう、貴族の権威はかなり低下しています。ここで私達が防御を固めるのではなく、積極的に打って出てはいかがでしょうか?
平民達の支持は、間違いなく得られると思います」
その意見に対し、ユキムラとヨシツネは私の目をじっと見つめる。
あの計画を、ここで話してしまっても良いのかという、確認の意味だとすぐに分かったので、私はだまって頷いて許可を出す。
ユキムラがゆっくりと、私の野望を語り始める。
「これはこの場だけの話にして、他言無用でお願いします。実は、ガイン家の領主にだけ語り継がれている、大おじい様の壮大な計画があるのです」
そう言って、しばらく辺りを見渡すユキムラ。
そして皆の表情を確認し、不用意に秘密を漏らすものがいないであろう事を確認してから、続きを語る。
「大おじい様は、この国から王侯貴族達を駆逐し、平民だけの国、キョウワ国を作ろうと、ずっと努力してこられたのです」
会議場からどよめきが起こる。
官僚の一人がそれの質問を始める。
「そのような事が可能なのですか?」
ユキムラが頷き、肯定する。
「なにせ、160年以上かけて計画されていたそうですからね。準備は万端でしょう」
私はここでユキムラの話を引き継ぎ、その内容を語り始める。
「貴族どもを打倒するためには、まずはその強力な権力基盤を崩す必要がありました。
そのために、貴族達の力の源泉となっていた彼らが独占する知識を、平民達に与える所から始めたのです。
そのための学校制度だったのですよ。
そして、今現在、平民達の知識は貴族達をはるかに凌駕しています。
そろそろ頃合いでしょう」
そこまで考えて学校を作っていたのかとか、そんなにも以前から準備を進めていたのか等、いろいろな驚きの声が聞こえてくる。
ここで、また別の官僚が私に確認を始めた。
「では、初代様が私達の王様になっていただけるのですか?」
期待のまなざしで質問をする彼には悪いが、それには同意できない。
「いえ。それでは王様が交代するだけで、駆逐する事にはなりません。一応、私も貴族の端くれではありますから。
ですから、能力のある平民の誰かに、この国を導いてもらいます。
そのためには、平民自身の手で、革命を起こしてもらう必要があるのです。ですから、こちらからは行動しません。もちろん、そのための援助は惜しみませんが」
私のこの発言により、ガイン自由都市の今後の行動の方向性が決定された。
その後の会議では、情報収集を強化する等のより細かい部分の議題が協議され、いよいよ、私の野望に向かっての大勝負の時が始まったのであった。