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先祖返りの町作り(再調整版)

第204話 ギンコウ

 それからまた、年を2つ重ねた頃。

 ニーナは第1子となる男の子を出産していた。銀髪に青い瞳のおとなしそうな赤ちゃんだ。

 この子は後に、ロランと名付けられた。

 ヨシヒロを見ていたら、自分の子供が欲しくなったらしく、

「あなた。もっと頑張ってください」

 と、ロレインの尻を叩いている様子が、度々見られるようになっていた。その結果、ロレインが少しやつれたように見えたのは、今となっては良い笑い話だ。

 またこの頃には、ヒデオジドウシャも無事に営業を始めていた。

 工房長兼開発主任に就任した、かつての研究室の担当キョウジュに、私はガソリンエンジンの原理等を説明し、開発を任せた。

 偉大な発見をしたオットーに敬意を払い、「オットーえんじん」として説明したため、やがて「オットージドウシャ」が開発される事だろう。

 ただ、これから先も、私に投資話が舞い込んだらどうしようかと、雑談交じりにヨシツネに相談してみた所、意外な回答を得る事になった。

「大おじい様。このままでは肩書が増え続けますよ? ですから、そのギンコウとやらを作れば良いのです」

「しかし、私にはギンコウ業務の知識がないのです」

「そこはほら、大おじい様お得意の研究をすれば良いのですよ。いつものように、ダイガクを活用してはどうです?」

 なるほどなと思った私は、早速ダイガクで人材を募り、ギンコウの立ち上げのための研究室を用意した。

 名乗りを上げたのは、リタさんという女性キョウジュだった。彼女の実家は大きな商会で、お金の運用に関しての基礎的な知識があったようだ。

「お金を増やすための研究だなんて、まさに私のためにあるようなものです」

 と言って、積極的に研究活動を開始してくれていた。

 とりあえずの研究テーマとして、企業に対する大型の投融資、原油や穀物等の相場取引を考えているらしい。

 これらは、小規模なものであれば、既に金貸しや行商人の間で行われており、それを大規模にするそうだ。

「ただ、運用するための元手をどうするかなんですよね……」

 そう、リタさんから相談を受けていた。

「それは、お金を預かる預金制度を作れば良いのですよ」

 私は簡単に説明する。

「一般のお客さんからお金を預かり、運用するのです。そして、利益の一部を利子という形で還元すれば、お金を預ける人も増えるかと思います」

「なるほど。なるほど。お金を預けておくと勝手に増えるわけですから、確かに需要はありそうですね」

「預金の他に、元金を保証しない代わりに高利率を売りにしてお金を預かり、プロが少しリスキーなものを運用して、還元する商品もあって良いでしょう」

 こうして、私が与えたヒントだけを頼りに、どんどんと彼女は研究を進めて行った。

 そんなある日。リタさんから、元金が保証されない等の、説明責任を明確化した方が良いと指摘を受けた。

 そこで、私は領主のヨシツネに相談し、官僚を交えてギンコウの関連法の協議も開始したのであった。


 これは少し先の話になる。

 リタさんは、後に自分のギンコウを立ち上げ、そこの頭取に就任した。彼女のギンコウは、やがてこの国で最大の規模を誇るようになる。

 リタさんの辣腕ぶりは広く知られるようになってゆき、次第に「金融業界の巨人」という異名で呼ばれるようになるのであった。