先祖返りの町作り(再調整版)
第201話 海運の父
新たな開発目標が決まった私は、早速ダイガクに天然ゴムと船の研究室を新設した。
そんなにたくさん同時進行して大丈夫かと思うかもしれないが、優秀な研究者が十分に育っているため、問題はない。
私は方向性の指示と、進捗のチェックだけやっておけば、後はキョウジュ達が頑張って進めてくれるのだ。
天然ゴムの研究室では、加硫の具体的な手法を研究し、船の研究室では、鋼鉄製の中型船の開発を目指す事にした。
「鋼鉄の船が水に浮くのですか?」
私は担当キョウジュに、そう質問を受けていた。
そこで私は、浮力についての説明を行う事にした。
物体を水に沈めると、本来そこにある水を押しのける事になる。
そして、押しのけた水の重さの分だけ軽くなる。
これが浮力の原理であり、アルキメデスの原理とも呼ばれる。
「つまり、重たい鋼鉄の船であっても、中を空洞にして押しのける水の量を増やせば、十分に水に浮くのです」
と、私は説明をした。
ただ、実際に船を作るとなれば、簡単に転覆しないように、重心を下に持ってくるための重りが必要だったり、強度を確保するための骨組みが必要だったりと、いろいろと試行錯誤が予想される。
ここで、担当キョウジュが追加の質問をする。
「それで水に浮くのは分かりました。しかし、それだけ重たい船を、いったいどうやって動かすのですか?」
私は簡潔に答えを説明する。
「『スクリュー』ですね」
「それはどのようなものですか?」
「水道管へ圧力を加えるために、水を一方向へ流すための羽がありますよね? あれを応用して、船の推力とするのです」
こうして、スクリューも含めた新しい船の開発も始まった。
これは少し先の話になる。
完成した船は、私にとっては小型船の部類に入る程度の大きさであったが、この時代の人々にとっては、十分に大型船になったらしい。
しかも、それが鋼鉄製であったため、皆かなり驚いていた。
さらにそれが、漕ぎ手がいない状態でスイスイと進む様子に、度肝を抜かれたようだ。
私は島の里との交易だけを考えていたが、やがてこれを使って港同士を繋ぐ、海運業が始まるようになっていくのである。
その結果、エルベ村は海運業の中心地として、次第に発展していく事になる。
そして、私には「海運の父」という、大変名誉な二つ名が増えるのであった。