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先祖返りの町作り(再調整版)

第195話 有線放送

 それからまた、4年の月日が流れた頃。

 67歳まで頑張ってくれていたイサミが、ついに旅立って行った。今回も、私を見て泣き崩れている家族を背後に、微笑みながらの見送りに成功していた。

 またこの頃には、デンワも少しずつ普及し始めていた。

 最初に設置していた私へのホットラインは、交換局を通さずに専用回線を用いて、いつでもボタン一つで呼び出せるように改造がなされていた。

 ヨシツネは、少し申し訳なさそうにしながら、

「いつでも大おじい様を呼び出せるこの専用回線が、私にとっては、とてつもない安心感になっているのです」

 と、説明してくれていた。

(かわいい子孫にそこまで頼られてしまっては、嫌だとはとても言えませんね)

 私はそんな感想を抱いていた。

 また、ダイガクのある研究者が、私には思いつかなかった、マイクとスピーカーの使い道を発見してくれていた。

 領民への一斉放送に使われている、大音量スピーカーと放送局を見て、これを各個人の家にそれぞれ設置する事を思い付いたのだ。

(なるほど。有線放送のラジオという訳ですか)

 私はとても良いアイデアだと思ったのだが、どうしても解決できない案件があると、開発者から相談を受けていた。

「これを使えば、各家庭に放送を届けられます。しかし、これを使ってどうやってお金を稼ぐのかが、どうしても分からないのです。

 各家庭から料金を徴収するにしても、それほど高額には設定できませんから、設備投資の金額が回収できないのです」

 私は一つ頷いて、解決策を伝授する。

「簡単ですよ。『コマーシャル』、いえ。放送の合間に宣伝を挟めば良いのです。そして、放送の時間帯等によって金額を変動させ、宣伝を申し込んだ企業からお金を回収すれば良いのです」

 しかし、彼は納得できないようだ。

「そんなものに、お金を払う人がいるのでしょうか?」

 そこで私は、ある折衷案を提案してみる。

「では、こうしましょう。まずは、全ての宣伝枠をヒデオ工房で買い取ります。そこで商品の宣伝を実際に流してみます。目端の利くものであれば、きっと食いつきますよ?」

 彼もこれには納得したようだ。

「分かりました。その方向でやってみます」

「ただ、いかなヒデオ工房でも、宣伝に巨額の費用はかけられませんので、できればお安くしてくださいね?」

 私が少し冗談めかしてそう言うと、お互いに微笑み合った。

 それからしばらくして、ガイン自由都市初の有線放送局が設立された。

 それは、たちまちにして、領民達の話題に上るようになった。

 そして、ヒデオ工房と関連企業の商品が、放送の合間に宣伝されていたため、それらの売り上げが激増したのであった。

(一般企業からのコマーシャルの申し込みも、思ったより早く実現しそうですね)

 私は確かな手ごたえと共に、新たなガイン自由都市名物の有線放送を聞いていたのであった。