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先祖返りの町作り(再調整版)

第174話 平民の守り手

 それから更に、皆年を一つ取った頃。

 サスペンションの開発が、ようやく完了していた。

 サスペンションは、主にスプリングとダンパーという2種類の部品からできている。

 スプリングは素早く縮み、ダンパーはゆっくりと縮む。これらを組み合わせる事で、快適な乗り心地を実現するのである。

 スプリングだけで衝撃を吸収した場合、揺れ戻しが大きくなってしまい、ふよふよととても乗り心地の悪いものになる。そのため、簡単に車酔いしてしまう。

 そこで、ダンパーの出番である。

 ダンパーは、別名をショックアブソーバーといい、空気の層と油の層の組み合わせでできている。

 これは、油の容器に接続された棒を伸び縮みさせると、ゆっくりと動く性質を利用している。しかし、油だけでは抵抗力が大き過ぎるため、空気の層も併用するのである。

 このダンパーには主に2種類あり、それぞれ単筒式と複筒式と呼ばれる。

 今回は構造が単純な、単筒式を採用している。

 単筒式のダンパーは、油の層と空気の層を直列に配置し、それらをフリーピストンと呼ばれる部品で隔てた構造になっている。

 しかし、単筒式のダンパーは、構造的にどうしてもストロークが短くなるため、硬い乗り心地になってしまう。

 そのため、本来であれば、フラットなサーキット場を高速で走る、レースカー等のスポーツタイプの車に適している方式である。

 しかし、ダンパーが全くないよりははるかにマシであるし、工作難易度も考えて、この方式に決定していた。

 完成したサスペンションの試作品の耐久テストや微調整を行うために、乗合馬車に取り付けさせてもらっていた。

 そうすると、乗り心地が格段に良くなったと評判になり、

「ぜひとも、さすぺんしょんをウチにも売ってください!」

 という要望が、殺到するようになっていた。

 そのため、トッキョを取って製法を一般公開し、各工房で製造、販売を行ってもらっていたが、その購入を巡って、トラブルも起きるようになっていた。

 貴族の関係者が、その権力を笠に着て予約を守らなかったり、買い叩いたりしていたのだ。

 どうにかしてほしいとの陳情を受けた私は、さすぺんしょん専門の販売店を私名義で新たに立ち上げ、この店を通してのみ販売する制度に変更した。

 そして、面倒な貴族の客が来た場合は、全て私に回すように周知徹底させた。

 大嫌いな貴族どもを、優遇するつもりはさらさらなかったため、

「どうしても売って欲しければ、きちんと順番を守って適正価格で買いなさい」

 と言って、全て追い払っていた。

 かつてのルツ工房の従業員時代のように、しつこい輩には、魔法で即刻ご退場願っている。

 貴族を一切特別扱いせずに矢面に立つ私の姿と、さすぺんしょんのトッキョ料も全てダイガクに寄付していた事も相まって、

「初代様は、我ら平民の守り神様だ!」

 と、またしても褒め称えられるようになってしまっていた。

「神様に例えられる等、不敬が過ぎるので、その呼び方はやめてください」

 と、何度もお願いした所、

「平民を守護してくださる、平民の守り手」

 という、新たな二つ名前をいただく事になったのであった。