先祖返りの町作り(再調整版)
第173話 七代目領主イサミ
それから更に、2年の月日が流れた頃。
リリアさんは男の子を出産していた。イサミにとっても待望の跡継ぎの誕生である。一族の伝統に則り、私がヨシツネと命名した。
シズカからの平家物語繋がりという事で、源義経が名前の由来である。
髪の毛はお母さん譲りの淡い色の金髪で、瞳はお父さん譲りの緑色をした、あまり泣き叫ばないおとなしい赤ちゃんだ。
「両親のどちらに似ても、知性溢れる大人の雰囲気の子供になりそうですね」
私は生まれたばかりのヨシツネを抱きながら、そんな感想を抱いていた。
ヨシツネが生まれた喧噪が一段落した頃。
54歳になっていたリョウマは引退を決意し、ちょうど30歳になっていたイサミに領主の席を譲った。
こちらも一族の伝統に則り、初代の私の目の前で引き継ぎが行われる。
リョウマがイサミに微笑みながら語り掛ける。
「本当は、ヨシツネがもう少し大きくなってからとも考えたのだがね。
お前も30歳になっていた事だし、もう責任のある立場になっても良いだろうと、そう判断したんだよ」
イサミがそれに答える。
「はい。私も本当は、もう少し早く、息子の誕生をお知らせしたかったのですが、子供は授かりものですからね。私も少しだけやきもきしていたので、今はホッとしています」
ここでリョウマが、先輩領主としてイサミを激励する。
「お前は大おじい様に似て読書家なので、とても頭が良い。だからきっと、歴代最高の名領主になれるだろうね」
しかし、イサミは少し自信なさげに、それに答える。
「私には、確かに知識だけはあるのかもしれません。しかし、経験の伴わない知識等、どうしても机上の空論や、理想論になりかねないと私は危惧しているのです」
そんな不安を聞いたリョウマは、大丈夫だと太鼓判を押す。
「経験に関しては、心配には及ばないよ? なにせこの領地には、130年以上の経験を誇る、自慢の相談役がどっしりと構えているのだから」
そう言いながら、私に視線を送る。
その様子を見たイサミは、それもそうですねと、納得した様子だ。
「大おじい様。これから、いろいろとご指導のほど、どうかよろしくお願いしますね」
私はイサミに微笑みかけながら、それに応じる。
「ええ。もちろん。いつでも私を頼ってもらえると、私もうれしいですよ?」
それを共に聞いていたリョウマが、私にある質問を投げかける。
「大おじい様にとっては、やはり、私達はいくつになっても、小さな子供のままですか?」
私はそれに頷きながら、肯定する。
「なにせ、あなた達が、生まれたその日から知っていますからね。子供扱いされるのは、どうしようもないとあきらめてください」
私がそう言うと、リョウマとイサミの親子は顔を見合わせ、フフッと笑い合っていた。
こうして連綿と受け継がれてゆく家族の営みを、私は全力で守り通そう。
私はもう何度目になるか、数える事をあきらめた決意を、しっかりと胸に刻み付け続けるのであった。