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先祖返りの町作り(再調整版)

第172話 油圧じゃっき

 それから2年ほどが経過した頃。

 無事に油圧を用いたブレーキの開発が終了していた。

 油圧とは、液体に圧力を加えると、全体に均等に圧力がかかる性質を利用している。

 そして、圧力を力に変換する場合、面積を掛け算する事で求められる。

 つまり、力を加える側の面積を小さくし、力を取り出す側の面積を大きくすると、その面積の比率に応じて力が増幅されるのである。

 これは、パスカルの原理と呼ばれる現象である。

 ちなみに、圧力の単位として有名なパスカルは、この原理を発見した人物の名前に由来している。

 ブレーキには主に2種類あり、それぞれドラムブレーキとディスクブレーキと呼ばれている。

 ドラムブレーキは、内側から外側に押し付ける事で摩擦を得る。

 ディスクブレーキは、外側から円盤を挟み込む事で摩擦を得ている。

 性能的にはディスクブレーキが勝るが、ドラムブレーキは工作難易度が比較的低く、低コストになる。

 今回作る自動車は、サスペンションやタイヤの性能的に考えて、それほどのスピードは出せないと予想されている。

 そのため、構造が比較的単純で作りやすい、ドラムブレーキを採用している。

 実際に作るにあたり、技術者や研究者に油圧の仕組みを分かりやすく説明するために、私は油圧ジャッキを試作していた。

「これは確実に売れますよ?」

 という指摘を受け、急遽、「油圧じゃっき」の販売が決定していた。

 あすふぁるとの道路を通行する際にはほぼ無用のものであるが、それ以外の未舗装の道を馬車で移動する場合、轍にはまり込んだり、脱輪したりする事も多い。

 そのため、馬車を所有している人にとっては、この油圧じゃっきがあれば、簡単に車体を持ち上げて復旧できるようになる。馬車の備品として必須のものになると、そう指摘されていた。

 しかし、販売した当初は、皆これがどのように役に立つのかが分からなかった模様で、ほとんど売れなかったそうだ。

 そこで、私が実演販売の方法を伝えた所、瞬く間に売れ始めた模様だ。

「初代様。また大儲けしてしまいましたね」

 そのように言われる事も多くなっていた。

 しかし、これ以上の定期収入があっても、私はため込むだけで使いきれない。

 そして、お金というものは、大量にため込むだけでは経済に悪影響を与える。お金は天下の回りものという格言がある通り、回してこそ皆幸せになれるのである。

 そこで私は、使いきれないトッキョ料の受取人をダイガク名義に変更し、研究開発費として寄付する事にした。

 これにより、さすがは学問の父だと、私の名声がさらに上がる結果になってしまったのであった。