先祖返りの町作り(再調整版)
第166話 新技術への期待
それから1年の月日が過ぎ去った頃。
研究開始から16年が経過していた浄水場の建設が、ようやく完了していた。当初の予定よりかなり時間がかかっていたが、これは私が開発を欲張ったからだ。
せっかく安全な上水道が作れるのだからと、近代的な水道管と蛇口の研究も進めていたのである。
これをしようと思い付いたのは、いくつかの基礎技術が進歩していたからだ。
扇風機の研究の成果により、水を効率よく一方向に流す羽が開発できていた。これを使えば、水道管に圧力を加える事ができるのではないかと考えたのだ。
また、この羽により、取水口のポンプの改良もなされており、魔力効率が上がっている。
そして、この羽を回す回転力には、魔道具のモーターが利用されている。
可能であれば、コストの安い電気モーターに置き換えたかったが、トルク等の性能が足りなかった。
この部分を改良するためには、永久磁石を強力なものにする必要がある。そのためには、レアアースと呼ばれる鉱物が必要となる。
しかし、私はその鉱物の具体的な名前や採掘場所等を知らない。
そのため、永久磁石の改良を長期研究課題とし、ダイガクでじっくりと腰を据えて、研究を始めた段階である。
ちなみに、既に設置しているガス管については、コンプレッサーの魔道具を応用したものを利用して圧力を加えている。
つまり、風を直接操作する魔法を利用しており、これについても電動化されていない。これは、風を送る羽の技術力の問題というよりも、風魔法の効率が良過ぎるためだ。
もう一つの注目すべき研究成果は、旋盤である。
これは、小さな魔法文字を刻むための研究から生まれた。
細かい金属加工ができる道具の開発が行き詰っていた時、私の所にキョウジュが相談に来たので、前世の旋盤のイメージを伝えた事があった。
そのヒントだけをたよりに、研究者と技術者が協力し合い、見事な研究成果を上げていた。
これにより、ある程度複雑な金属加工が効率的に出来るようになり、蛇口の開発が行えるようになったのである。
ちなみに、蛇口に使われるパッキンには、レイゾウコの開発時に作成して以来大活躍の、ゴムの代用品が使われている。
しかし、このゴムの代用品は、前世でのゴムほどの品質は持っておらず、少し高い圧力をかけると水漏れが発生していた。
そのため、水道の蛇口をひねった時の水の勢いに不満があった。
しかし、私以外の研究者達には、どこが問題なのか理解できないようで、レイゾウコの時と同様に、私の技術者としてのこだわりが過ぎていると判断されていた。
そして今は、徐々に従来の上水道を水道管に置き換える作業が続いている。水道管が施設できた地域から、順次蛇口を設置中だ。
その結果、蛇口をひねるだけで飲み水が得られるようになり、ガイン自由都市では平民でもお貴族様のような生活ができると、大好評であった。
貴族達による締め付けにも関わらず、その噂を聞き付けた移住者が増加しており、貴族と平民の間の火種が、だんだんと大きくなっていった。
しかしガイン自由都市の内部に限れば平和で、皆我が世の春を謳歌していた。
次々に開発される新技術に期待感が膨らみ続け、より良い未来への予感から、領民達は皆そろって笑顔であった。
ダイガクでの研究成果が実用化されるたびに、私は高等教育機関の重要性を再確認したのであった。
そして、これまでの研究成果を見返してみた結果、ダイガクの研究者達が十分に育っていると確信し、基礎的な研究範囲は彼らにまかせる事にした。
その代わり、私は経済の発展に直結するような応用研究に、次第に没頭するようになっていくのであった。