先祖返りの町作り(再調整版)
第167話 弱まる権威、強まる火種
この頃になると、ガイン自由都市以外の領地への本の流通がだんだんと増加していったため、それらの知識を得た平民の発言力が高まっていた。
その結果、それまで知識を独占していた貴族への不信感が高まり、徐々にではあるが、貴族の権威に陰りが見え始めていた。
それに加えて、ガイン自由都市での平民の生活水準が噂になって広まったため、今の領地に嫌気がさして、我らの領地へと移住するものが激増していた。
その状況がまずいと貴族達が気付いたのは、税収が年々減少する傾向がはっきりしてからであったというから、いかに貴族どもが平民に関心がないのかが裏付けられたとも言えるだろう。
やっと状況の悪さに気付いた大半の貴族達は、平民の移動を厳しく制限し始めた。
しかし、貴族に頼らなくてもやっていけると既に知ってしまっていた平民達は、それにはもう素直に従わなくなっていた。
こっそりと財産を売り払い、貴金属等の換金性の高い、かさばらないものを用意し、夜中に警備の隙を見て逃げ出すものが多くなっていた。
やがて、夜逃げ専門の業者まで設立されるようになり、ガイン自由都市に堂々と本店を置いて営業している始末である。
彼らは、領地の維持には必須の行商人として普段は行動し、荷物に紛れて平民達を脱出させていた。
業者にもよるが、手数料はだいたい成功報酬で、それほど高額でもなかった事から、利用するものが後を絶たなくなっていた。
その状況に業を煮やした貴族達は、そもそも平民が余計な知恵を持っているのが悪いのだと、焚書も盛んに行うようになっていた。
しかし平民達はしたたかで、偽物の本を派手に燃やして対抗していた。
ガイン自由都市には、焚書用の本として有害図書指定を受けた本の表紙だけを用意し、中身が白紙の本が堂々と一般販売されている。
これらの本は、年々売り上げが上昇している模様だ。
ちなみに、私が焚書に怒り狂って大暴走した話がガイン自由都市の外にも広まっていたようで、焚書用の本は、初代様を宥める本とも呼ばれているそうだ。
貴族達は、そんな平民達の逞しさに気付く事もなく、反発を強めるだけの弾圧を加え続けるのであった。