先祖返りの町作り(再調整版)
第161話 共同研究
セレスさんにせがまれたため、私は早速、硝酸の作成方法についての説明を開始した。
「今回使用するのは、オストワルト法という製造方法です」
オストワルト法は高校の化学で学習する、硝酸の大量生産にとても適している手法である。
「まず主原料ですが、あんもにあです」
アンモニアと聞いて彼女もピンときたようで、確認のための質問をする。
「というと、ハーバー・ボッシュ法のやつですよね?」
私は頷きながら肯定する。
「ええ、そうです。さすがに優秀ですね。他の研究室の研究内容まで、しっかりと把握しているのですから」
そして彼女は、期待を裏切らない優秀な頭脳で、ある指摘をする。
「情報の秘匿が必要という事は、原料から作成するのでしょうか?」
私はそれに大きく頷いて肯定する。
「話が早くて助かります。あんもにあの作成で何か分からない事があれば、私がその研究室のキョウジュに質問しますので、私に質問するようにしてください」
そしてセレスさんは、ここで本題の硝酸の作成について尋ねる。
「了解しました。では、どのように、ショウサンを作成するのでしょうか?」
私はそれに対し、まずはざっくりとした内容を先に語る。
「バケガク反応はとても単純です。あんもにあと空気の混合気体を用意して、あんもにあをサンカさせてから、水と反応させるだけです」
彼女はその単純な化学反応に、少し驚いた様子で質問を重ねる。
「そんなに簡単に作れるのですか?」
「実際には、これだけではあまり反応が進みません。そこで、ショクバイを用意します」
「そのショクバイは何でしょう?」
私は簡潔に答えを告げる。
「偽銀ですね」
偽銀というのは、この世界でのプラチナの事である。銀よりえらく重たい偽物として扱われている。
私がこれをプラチナであると特定できたのは、その重さの比率である。正確な比重までは覚えていなかったが、銀の2倍程度重いという事は覚えていたためだ。
私は忘れてしまっていたが、銀の比重は10.5、プラチナは21.5である。つまり、2倍と少し重たい計算になる。
この偽銀は、とある研究室で面白い研究テーマとしても扱われている。そこでは、銀と偽銀と魔法銀の特性を比較し、最終的には魔法銀の合成を目指している。
この研究テーマはこの世界独特のものであるため、私は非常に興味をそそられ、学長時代に手厚く予算を配分して奨励していた。
閑話休題。
セレスさんに化学反応式等を一通り説明し、研究を開始する事となった。
「名誉学長。研究を開始する前に、一つ質問してもよろしいですか?」
「ええ、もちろん。何でも聞いてください」
そうすると、彼女はもっともな質問を始めた。
「名誉学長は、欲しいものもその製法も明確に分かっておられるのに、私に手伝わせる理由は何ですか?」
私はそれに正直に答える。
「私一人でも作れなくはないでしょう。ですが、今回はスピードを重視したいのです。私だけであれば、見落としや思い込みから、回り道が発生する可能性があります。
ですので、優秀なあなたの意見を伺って、共同研究にしたかったのです」
セレスさんは、私の説明に納得してくれたようだ。
ただ、私の研究室では、情報の秘匿に問題があるのではないかという指摘も受けた。
そのため、私はまたリョウマにニッコリとお願いして、予算を分捕ってきた。その予算を使い、ダイガクの奥まった敷地に、機密研究専用の研究棟の増設工事が始まったのであった。