先祖返りの町作り(再調整版)
第160話 協力要請
新法案の作成依頼が無事に終了した頃には、すっかり暗くなっていた。
私はすぐにでもダイガクにとって返したかったが、次の予定は、ある人物に協力を要請する事であったため、さすがに今日はあきらめて、翌日になるのを待った。
そして次の日。
私は朝一番に、ある女性キョウジュの研究室を訪ねていた。
そのキョウジュはセレスさんという人で、黒い瞳で黒髪をショートにした、どこか和風の雰囲気の漂う女性だ。左目付近にある泣きぼくろがセクシーな、男性にとても人気がある美女でもある。
しかし私にとって必要なのは、その美貌ではない。その優秀な頭脳を借り受けたいのだ。
部屋に入った私を見ると、セレスさんは少し驚いた様子で質問を投げかける。
「名誉学長。こんなに早くからどうされたのですか?」
ちなみに、名誉学長というのは私の事だ。学長の席を後進に譲った際に、なんらかの形でダイガクとの繋がりを残して欲しいと周囲に懇願されたため、名誉職ならと了承し、この役職名がついている。
「これからお話する内容は、ガイン自由都市の安全保障にかかわる内容です。ですので申し訳ありませんが、お時間のある時に、私の研究室を訪ねてきてはいただけないでしょうか?」
私がそうお願いすると、彼女はこれからでも大丈夫ですと了承してくれて、そのまま私の研究室まで同行してくれた。
部屋に入った私は厳重にカギをかけて確認し、応接用のソファーに向かい合って座ると、早速本題に入った。
「セレスさん。あなたの研究成果を拝見しました。エンサンとリュウサンの比較研究は、とても興味深いものでした。そこで、優秀なあなたにお願いしたい事があるのです。
しかし、その前に質問させてください。
エンサンともリュウサンとも違う、第三の酸に興味はありませんか?」
セレスさんはこの話を聞くなり、がばっと身を乗り出して、少し興奮した様子で語り始めた。
「そ、そんなものがあるのですか!! もちろん、興味ありまくりです!」
私はその勢いに押され、若干のけぞりながら、デメリットについての説明を加える。
「ただ、この『硝酸』は、非常に強力な武器の主原料なのですよ。
ですから、このショウサンの作成方法等を含めた全ての情報は、これから施行される軍事機密保護法の適用対象になります。
そのため、ショウサンの関連情報は、全て秘匿していただく事になりますので、私以外には内容を発表できなくなります。
それでも作ってみたいですか?」
彼女は顎に手を当てて考え始めた。メリットとデメリットを天秤にかけている模様だ。
「うーん……。ちなみにその武器はどのくらいの威力なのですか?」
私は少し考えを巡らせ、できるだけ分かりやすい例えを使いながら説明を行う。
「そうですね……。上級範囲魔法の火柱の魔法以上の威力のものが、誰にでも扱えるようになります」
彼女は目を見開き、驚いた様子で確認を取る。
「そ、そんなにですか?」
私はゆっくりと頷き、肯定する。
彼女は決断するまでに、ほとんど時間を必要としなかった。
「……分かりました。それは確かに、秘匿する必要がありますね。
私は名誉が欲しくて、キョウジュをやっている訳ではありません。ごくごく一部で構わないので、この世の真理を知りたいだけです。
ですから、名誉学長の条件を全て飲んででも、まだ見ぬ酸を取り扱ってみたいです」
私はその発言に、彼女の学者としての矜持を感じ取り、感動を覚えながら感謝を述べる。
「おお……。ありがとうございます。では、その作成方法について説明を行いたいのですが、日を改めた方がよろしいですか?」
彼女はいかにもワクワクしていそうな、好奇心に溢れた目で返答する。
「いえ。今日で構いません。というか、今すぐお願いします!!」
こうして私は、硝酸の作成のための協力者を得たのであった。