先祖返りの町作り(再調整版)
第150話 ぱうんどけーき
それから3年ほどの月日が流れた頃。
私は自室で、ガイン自由都市の特産品のぶらんでーを楽しんでいた。
「ふぅ……。ぶらんでーは美味しいのですが、私だと量が飲めないのが問題ですね」
あまりお酒を飲まない私にとっては、ぶらんでーは強過ぎるお酒であるため、ちびりちびりとなめる程度にしか飲めない。
そのため、ボトル一本開けようと思うと、かなりの時間が必要になってしまう。
「何か他の使い方を考えた方が良いのかもしれませんね」
ぱっと思いつくのは、紅茶にぶらんでーを混ぜて飲む事だ。しかしそれでも、大した量は消費できない。
「そういえば、お菓子にお酒を使ったものがありましたね」
ウィスキーを使った、有名なチョコレート菓子が浮かんだ。しかし、肝心のカカオ豆が発見できていないため、チョコレートの再現が不可能だ。
他のお菓子で何かないかと、考えを巡らせる。
「『ケーキ』はどうでしょう?」
ケーキのスポンジ部分に、ブランデーを混ぜたものを思い出した。ただ、この国では、少なくとも平民の間でケーキを見た事がない。
細かい分量を覚えていないため、再現が難しい事に思い至る。
またしても行き詰った私は、なにか簡単に作れるケーキはないかと、さらに考えを進める。
「そうだ。『パウンドケーキ』があるじゃないですか」
パウンドケーキなら、材料の小麦粉、砂糖、卵、バターを同じ重さだけ用いれば作れるはずだ。
ちなみに、パウンドケーキというのは、イギリスでの呼び方である。
とあるラノベの影響で、フランスでの呼び方の、キャトルカールと言った方がピンとくる人もいるのではないだろうか。
キャトルカールとは、4分の4という意味である。4種類の材料を均等に利用する事から、そう呼ばれている。
ちなみにこの国では、小規模ながら畜産業が存在しているため、酪農業も存在する。そのため、チーズやバターも手に入る。
「そうと分かれば、早速試作です!」
それから、領主館の料理長も巻き込んでの開発が始まった。
しばらくして試作品が完成し、今は領主の執務室で、休憩中のお茶請けとして試食が始まった。
「これが、ぱうんどけーきですか。お酒の風味が効いていて美味しいですね」
どうやら、カズシゲには好評のようだ。
ここで、手伝いに来ていたリョウマが、別の切り口での感想を述べる。
「ただ、お酒を使っていますから、子供達には食べさせられませんね」
私は、子供達でも食べられる解決策を述べる。
「ぶらんでーを抜けば、子供でも食べられますよ?」
「そうなのですか?」
「ええ。もっと甘さが欲しいと思ったら、蜂蜜を混ぜるとか、あるいは、干しブドウとかを混ぜても美味しいですね」
そうやって出たいくつかの改善案を基に、料理長と一緒になってさらなる改良を加えていった。
そうやって完成した、各種のぱうんどけーきのレシピを冊子にまとめ、一般公開した。
これで商売しなくてもお金は十分に持っているし、一般的なものになると競争が生まれ、より美味しいものが開発されるのではないかと期待したためである。
そうすると、平民達の間ではお菓子等の贅沢品の文化はあまり発展していなかったため、瞬く間に人気となり、ガイン自由都市の新たな特産品として認知されるようになるのであった。