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先祖返りの町作り(再調整版)

第146話 近代都市への第一歩

 街道整備の進行に応じて原油の輸送量が少しずつ増加しているため、火力発電の研究を本格的にスタートさせた。

 ただ、予想通りダイオードの開発が難航しているので、直流電流を送電する計画に変更している。

 ガイン自由都市内部だけの送電であれば、送電距離による影響は、それほど問題にならないと判明したためである。

 ちなみに、交流と直流の発電機の違いは、コイルが半回転した時に、電極を逆に繋ぎ直すかどうかで決まる。

 磁場の中でコイルを回転させれば、フレミングの右手の法則に従い、交流電流が発生する。そこで、半回転した時にプラスとマイナスを入れ替える事により、直流電流とするのである。

 ただ、この方法だけでは、電流に山なりの波形が強く出てしまう。そのため、実際には、安定した直流電流とするために、コイルの形状等を工夫する必要がある。

 さらに、火力発電の試作機で確認した結果、軸が高速回転するため、軸受けの強度等が問題になっていた。

 そこで、効率的に回転させる事ができる上に強度も上昇する、ボールベアリングの開発も開始した。

 ボールベアリングとは、球形に加工した金属を軸の周りに隙間なく複数配置する事により、回転時における摩擦を軽減し、回転軸を安定させる技術の事である。

 ただ、この時使用される金属球は、かなり正確な球形に加工する必要がある。少しでも歪な部分があると、そこが抵抗力となって破損してしまうためだ。

 そのための基礎研究をダイガクに依頼した所、小人族のペテさんが名乗りを上げた。彼の実家は金属細工工房であるため、精密加工の知識に自信があったようだ。

 また、発電する電力の使い道の研究もスタートさせた。とはいっても、そこまで大量に原油が輸送できていないため、あまり電力を必要としないものを優先している。

 最初に手掛けたのは、電球の開発である。

 これは、発明王として名高いエジソンの偉大な発明品の再現を目指している。

 フィラメントとして炭化した竹を採用し、電球内部を真空状態にする事によって、長持ちする電球を開発するのである。

 ちなみに、この辺りでは竹が自生しているため、原料の調達は容易だ。

 また、電気モーターの応用として、扇風機の研究も始めた。

 たかが扇風機に大げさなと思うかもしれないが、実はこの研究は、いろいろと応用範囲が広い。

 羽を回して空気の流れが作れると、例えば、強力なものを開発すれば、コンプレッサーも作れるようになる。そうすれば、いずれは電動の比較的安価な冷蔵庫やクーラーも作れるようになるのである。

 ちなみに、一般販売された灯油の活用法として、石油ストーブの販売も始まっている。

 魔道具の暖房器具よりはるかに安価に購入できる庶民のための暖房として、人気を博している。

 また、試験的に作った火力発電機は、熱効率が非常に悪かった。そのため、発生する熱の大部分を、廃熱として捨てている状態である。

 そこで、廃熱を利用した大衆浴場の建設も視野に入れている。

 これら複数の研究を私一人で行っていたのであれば、かなりの時間と手間を必要としていただろう。

 ダイガクを開校して研究者を育成して本当に良かったと、心の底から実感しながら、多忙ではあるが充実した毎日を私は送っていた。