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先祖返りの町作り(再調整版)

第140話 原油

 それから3年ほどの月日が流れた頃。

 少し前にシゲルが旅立っていた。

 私はエストとの約束を守り、笑顔で見送る事に成功していたが、家族達はなぜか、そんな私の様子を見て余計に涙を流していた。

 涙を流せない私の代わりに泣いてくれるその姿がとてもありがたくて、私は黙って家族に頭を下げていた。

 そして、それからしばらくして、夫の後を追うようにして、クレアさんも息を引き取った。

 相次いでひ孫夫婦を二人とも亡くしたため、私の胸に、ぽっかりと穴が開いたような寂しさを感じていた。

 エストが望んだ通り、空元気でも良いからと自分を奮い立たせ、なんとか日常業務をこなしていたが、胸のこの寂寥感だけは、なかなか消えてくれなかった。

(こんな事では、エストの巨大な愛情に報いる事ができませんね)

 私はそう思い、せめて気分転換にと、昼食を取るために外食に出かけた。

 どうせ気分転換をするのならと、ガイン自由都市で評判の高級料理店に入った。

 この店は高級店であるため、料金がそれなりに高額ではあるが、この都市の平民であれば、たまの贅沢として利用できる程度の良心的な価格設定がなされていた。

 そのため、記念日等に利用される特別な店として、とても繁盛していた。

 入店した私は、平民にとっては珍しい牛肉を使ったフルコースを注文し、静かに料理を待っていた。

 そうすると、隣の席の家族の会話が自然と耳に入ってくる。

「ねえ、あなた。セネブ村の黒い水の話は知っている?」

「なんだい。それは」

「なんでも、セネブ村には、黒い水と言われている油が湧き出しているそうなのよ。その油は無料で利用できるのですけど、とても臭いがきつくて、お金に困った平民しか利用していないのですって」

 私はその話を聞いた時、とても思い当たるものが浮かんだ。

「すいません。ちょっとよろしいですか?」

 気付くと、隣の席に話しかけてしまっていた。

「あら。初代様から話しかけてくださるなんて光栄ですわ。なんでしょう?」

「その黒い水について、詳しく教えていただけませんか?」

「それは構いませんが、私も友人から聞いただけですので、そこまで詳しくは知りませんよ?」

 そのようにして、話の詳細を聞き出した私は、善は急げとばかりに、その足でセネブ村へと向かった。

 幸い、割と近場にあったため、乗合馬車を使えばその日のうちに到着できた。

 私を見かけた村民が村長に連絡してくれたようで、しばらくすると、彼の方から訊ねて来てくれた。

「これはこれは、ガイン家の初代様。このような辺鄙な村にお越しくださり、とても光栄ですが、何用でしょうか?」

「この村で使われている、黒い水に興味がありまして。

 私の想像している通りのものであれば、この村は大きく発展しますので、その湧き出ている場所まで案内していただけませんか?」

「あれに、そのような価値があるとはとても思えませんが……」

 そう言いながら案内された場所を見て、私は感嘆の声を上げた。

「素晴らしい……! 間違いありません。これは『原油』です!!」

 うれしさのあまり思わず大声を上げてしまった私を、村長は怪訝な目で見ながら、問いを発する。

「ゲンユですか?」

「ああ。すいません。ここからは遠い国の言葉で、そういうのです。この黒い水の正式な名前がありましたら、ぜひとも教えていただけませんか?」

「私達はこれを、原油と呼んでいます」

 私はこの国での、原油に当たる単語を知った。

 ちなみに原油とは、未精製の状態の石油の事である。

 なおも怪訝な目で見ている村長に、私はこの原油の価格を聞く。

「すいません。この原油を樽に詰めて、ガイン自由都市のダイガクまで運びたいのですが、おいくらで売っていただけますか?」

「これは、皆自由に使っていますから、お金は必要ありませんよ?」

「それはいけません。この原油は、この村を……いえ。この国を大いに富ませる原動力になります。ですので、きちんと価格設定をしておかなければ大損しますよ?」

 私はそう述べて、村長ととりあえずの取引価格を設定した。

 私では、適正価格がいまいち判断できなかったので、後に正式に担当商人を決めて、変動相場制で取引する事も合わせて約束をした。

 そうやって買い取った原油を、人手を雇って手頃な樽に詰めた。

 その日はもう乗合馬車がなかったため、村に一泊して翌日に馬車を手配し、お金を払って輸送してもらった。

「これからは、研究が忙しくなりそうです。落ち込んでいる暇は、全くありませんね!」

 やるべき事を見つけた私は、今度こそ、元気を出して日々を送る事を決意したのであった。