先祖返りの町作り(再調整版)
第141話 あすふぁると
セネブ村から帰還した私はそのままダイガクへと直行し、学生達に手伝ってもらいながら原油を研究棟まで運んだ。
それから、手の空いているキョウジュ達に集まってもらい、研究者を募るための説明を始めた。
「この原油は、様々なものに応用できる宝箱です」
私は頭の中で応用範囲を思い浮かべ、何が彼らに最も受け入れられやすいかを考えていく。
「例えば、丈夫で透明な上に割れない容器が作れるようになります。
また、これを使えば、物理学部で教えている『コンデンサ』や『ダイオード』等の『電気』部品を動かすための『電力』を、大規模に作れるようになります」
そうやって手ごたえを確認していると、数人の研究者が興味をひかれ始めたようだ。
「ただ、私がすぐにでも始めたいのは『アスファルト』の研究です。これができると、平らで頑丈な道が比較的安価に建設可能になります。
そうすると、物流の速度が飛躍的に上昇しますので、この都市がさらに発展します」
名乗りを上げた数人の研究者に、あすふぁるとを作るための基礎的な内容を説明してゆく。
あすふぁるとを作るためには、まずは数種類の油を分離しなくてはならない。これの一般的な方法には、蒸留の一種である分留と呼ばれるものが使われる。
詳しい温度までは覚えていないが、温度の低い方から順番にガソリン、灯油、軽油が抽出され、残ったものが重油として船舶を動かすための燃料等になり、それからあすふぁるとが作れるはずである。
また、この分留に必要な温度計は、現在既にある水銀温度計が使えるはずだ。
今の圧力が加えられていない水銀温度計でも、確か350℃ぐらいまでは計測できたはずなので、なんとか軽油の分留まではできるだろう。
ちなみに、正確な分留の温度は以下のようになる。
30℃~180℃でガソリン。
170℃~250℃で灯油。
240℃~350℃で軽油である。
これに対し、圧力の加えられていない水銀温度計で計測できる範囲は、-30℃~360℃である。
つまり、分留が可能である。
このうち、ガソリンは揮発性が高く発火性が強いため、しばらくは使い道がないだろう。ガソリンエンジンが作れたらベストだが、今後の課題として保留する事にした。
灯油については、ランプ用の油に使えるし、石油ストーブも作ってみたい。また、水銀温度計よりも安全な、アルコール温度計も作れるようになる。
軽油の使い道も要研究である。いずれはディーゼルエンジンを作ってみたいが、こちらも今後の課題だろう。
あすふぁるとの作成のための基礎研究をダイガクの研究者達に任せ、私は実際に建設するために必要な大型のローラーの魔道具等の研究を開始した。
今後の大きな発展が期待できる研究内容に私の胸は高鳴り続け、寂寥感を感じる暇がないほどに私は研究に没頭していった。