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先祖返りの町作り(再調整版)

第121話 大学設立構想

 それから私は、ヒデオ工房の工房長の部屋で、平民達の学力をさらに上げるための思索を続けている。

「やはり、さらなる学力を得るとなると、新たな学校の建設しかありませんね」

 いつものように独り言をつぶやきながら、考えをまとめていく。

「ここは、『高校』数学を教える事にしましょう。そうすれば、私が記憶しているほぼ全ての数学を伝える事ができます」

 そのまま考えを進めていく。

「ただ、私が記憶しているものだけではなく、もっと発展させるための研究室も作りたいですね」

 いつまでも私が教えるだけでは、それ以上の発展は望めない。ここは、自力で発見してもらうために、研究室を用意するのが一番良いだろうと考えを進める。

「そうなると、『大学』制度ですね」

 3年で学習を修了し、残り1年で研究室に入って卒業研究をする、前世の大学制度を取り入れる事にする。

「そうなってくると、『大学院』制度や『教授』制度も必要ですか……」

 卒業研究をさせるためには、専門の研究職が必要だ。予算の問題もあるが、それをクリアしたとしても人材の問題が残る。

「ここはじっくりと腰を落ち着けて、人材育成をする必要がありますね……」

 大学教授になれるだけの人材を育成するとなると、教育にかなりの時間が必要な事が分かる。

 他に良い方法も思い浮かばないため、こればかりは焦っても仕方ないと本腰を入れて教育する事を決定する。

「自分達で研究してもらうとなれば、数学だけではもったいないですね。ここは、『物理』と『化学』も合わせて教える事にしますか」

 今後の科学の発展を期待し、物理学部と化学部も併設する事を決定する。

「ただ、『高校物理』はともかくとして、『高校化学』は、そこまで詳しくは覚えていないのですよね……」

 私はどうやら物理が好きだったようで、高校物理は良く覚えている。

 自然現象である物理現象が、ごく単純な数式で表せられる様子は、今でも美しさを感じるほどである。

 それに比べると、化学は丸暗記が必要な項目が多かったため、少し苦手にしていたようだ。

「ここは妥協して、『化学』は中学卒業程度の基本のみにしましょう」

 前世の知識を乱用して、各種の化学物質の名称を決めるのもはばかられる。自分達で発見して命名してもらうために、基礎的な内容のみを教える事を決定する。

「『物理』を教えるとなると、各種の単位も決めなくてはならないですね」

 物理には、ニュートンやジュールといった独特の単位形態がある。これらをまずは決めてしまわないと、教える事ができない。

「ここは昔の偉人達の知恵を借りて、『MKSA単位系』を参考にしましょう」

 現代の単位は、国際単位系と呼ばれるもので厳密に定義されている。ただ、この定義を私は良く覚えていない上に、参考にするにはかなりの精度の測定器が必要になる。

 そのため、それよりも昔に採用されていた、MKSA単位系と呼ばれるものを参考にする事にする。

 MKSA単位系というのは、全ての単位を、メートル、キログラム、秒、アンペアの組み合わせだけで表現するものである。

 例えば、力の単位であるニュートンは、メートル、キログラム、秒の組み合わせで表現できる。

「『メートル』と『キログラム』に関しては、そのままこの世界の単位で代用するとして、問題は『秒』と『アンペア』ですね」

 この国での時間の単位はかなりおおざっぱなもので、秒に当たる細かい単位が、少なくとも平民には伝わっていない。

「『秒』については、この星での一日の長さを24『時間』と決めてしまって、そこから求める事にしましょう」

 里でやったように、日時計を作って、影が南中の位置に来る時間間隔を計測すれば、1日の長さが分かる。

 それを24 x 60 x 60で割り算すれば、1秒が求められる。

 この星の1日の正確な長さは不明だが、1年がおよそ363日であろう事等から類推するに、地球とそれほど極端には違わないと思われる。

「『アンペア』については、『電子ボルト』が計測できれば一番良いのですが……」

 電子ボルトというのは、電子ひとつ当たりの電気量である。

 電流の単位であるアンペアは電子の流れる量であるため、これさえ判明すればアンペアは求められる。

 しかし、そのような精密な測定は不可能であるため、他の方法を考える。

 電圧の単位であるボルトと、電気抵抗の単位であるオームさえ判明すれば、アンペアを求める事は簡単であるが、どちらも測定不能である。

「『電流』で起こる、測定可能な現象……」

 しばらく悩んだが、フレミングの法則を思い出した時にひらめいた。

「二本の平行な銅線に電流を流し、引き合う力の強さから求めましょう」

 銅線に電流を流すと、その周りに磁場が発生する。

 そして、もう片方の銅線に流れる電流にフレミングの左手の法則があてはめられ、引き寄せあう力が求められる。

 この時に、磁気定数と呼ばれる値が分かっていると、前世のアンペアが求められるが、残念ながら覚えていない。

 そこで、この世界での独自単位とする事にし、磁気定数を扱いやすいものに変更して、新たな電流の単位を求める事にする。

「理論的には、ここまで求められれば全ての単位が表せられますが、『熱力学』を考えると、『ケルビン』温度をどうするかですね」

 熱力学には、ケルビンという温度が用いられる。これは、日本では一般的なセルシウス温度から求められる。

 セルシウス温度は、1気圧下で純粋な水が凍り始める温度を0度、沸騰する温度を100度として求められる。

 ちなみに、MKSA単位系では、温度の単位はジュールで表せられる。

 1気圧下で純粋な水1グラムの温度を1度上昇させるのに必要な熱量が1カロリーであり、1カロリーは約4.2ジュールである。

 しかし、前世の長さや重さ等の単位をこの世界での単位に換算する方法が分からないため、ジュールからは求められない。

 よって、昔ながらのセルシウス温度をまずは求め、それに273を足し算して、ケルビン温度を求める事とする。

「これで『物理』と『化学』はなんとかなりそうですね。ただ、季節のずれない暦も欲しいので、『天文』学科も併設する事にしますか」

 物理学部の一学科として、天文学科を設立する事を決定する。

 ただ、正確な暦を作るためには、地味で長い期間の観測が必要なため、少し予算を優遇する事も合わせて決定する。

「まずは、各種単位の計測と決定ですね。それができてから、『教授』候補の研究者の育成です。これは、10年がかりの大仕事になりそうです」

 私は、大学の設立に向けて、各種の準備を始める事にする。