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先祖返りの町作り(再調整版)

第106話 合金の完成

 ガイン警備隊の設立から、2年ほどが経過した頃。

 ようやく、金色の粉を混ぜ込んだ合金が完成した。

 トッキョ庁の設立準備や、ガイン警備隊の編制や訓練等、かなり忙しかったが、なんとか時間を作って研究を継続していた。

 この合金は、鉄と金色の粉を基本とし、適量のすずと銅、そして少量の銀を配合する事で、魔法銀よりもわずかに伝導率が低い程度になり、十分に実用に耐えるものになっていた。

 合金開発成功のニュースは、驚愕をもって魔道具業界に流れていたが、その価格を巡って弟子達からの猛反発を受けた。

 私の原価計算によれば、1/5以下程度にまで価格を抑えられるとはじき出したが、これは弟子達にとっては、到底受け入れられない金額だったようだ。

 価格決定会議の場で、従業員を代表して副工房長のワントが意見を述べる。

「1/5という価格にしてしまいやすと、他の工房で魔道具が売れなくなってしまいやす。初代様は、他の全ての工房をつぶすつもりでやすか?」

「そんなつもりはありません」

「ですが、その価格にすると起こりえやすぜ。それとも、この都市の全ての職人を雇用しやすか?」

 そういう事も考えなくてはならないのかと気付いた私は、黙ってワントに説明の続きを促す。

「そうなってしまえば、我が工房は、初代様のおっしゃっていた独占企業になりやす。それは、常々初代様の主張しておられる、競争原理から外れた事態になりはしやせんか?」

「では、ワントはどのくらいが適正価格だと考えていますか?」

「7割ぐらいでやしょうね」

 さすがに、それはぼったくり過ぎだと考えた私は、もう少し値引きできないかと、弟子達を中心とした経営陣達と喧々囂々の議論を重ねた。

 そして、ようやく決まった価格は、現行の半額と決まった。

 ワント達の説明によると、これはギリギリの譲歩だそうだ。これ以上安価にしてしまうと、どうせ転売屋が利益を出すだけになり、価格を下げる意味がないと説明を受けた。

 そうして、しばらくして発売された新価格での魔道具は、飛ぶように売れていった。

 すぐに生産が間に合わなくなり、レイゾウコの時のように予約生産制に移行した。しかし、それでも予約が積みあがっていき、気が付けば、2年先まで予約でびっしりになっていた。

 弟子達は、工房の規模をさらに拡大すべきだと主張していたが、私は、これ以上ヒデオ工房だけが大きくなってしまうと競争が生まれにくくなると説明し、あえて生産量を抑えていく方針を決定した。