先祖返りの町作り(再調整版)
第105話 特許庁設立準備
エストと相談してから数日後。
私は、この領地独自の条例として、特許庁の設立のための準備を始めた。
今のままではコピーしたもの勝ちのため、新しい発見や研究が秘匿されるばかりか、研究にあまり熱心ではない事を危惧したためだ。
私一人がいつまでも新技術を開発し続けているようでは、これ以上の発展は望めないと思い始めていた。
同時に著作権の考え方も周知し、新しい作家や音楽家等の権利の保護も説いていた。
ただ、これらは、これまでの考え方とは異質なものであるため、すぐには受け入れられないだろう事は容易に想像できた。
そのため、公立学校での授業に、特許権や著作権の考え方を教える授業を取り入れる事にした。
私も特別臨時講師という職を利用し、特別授業で繰り返しこれらの権利の重要性を説いた。
「先生。自由にコピーできなくなれば、経済が停滞するのではありませんか?」
高等学校の生徒の一人が質問をする。
「それは逆ですね。自由にコピーできる状況を放置していては、研究が行われず、新しい技術が生まれません」
「それはなぜですか?」
私は微笑んで、なるべく優しく解説する。
「研究というのは、長い時間と多額の費用が必要です。ですので、自由にコピーできる環境では、新しく研究開発するよりも、誰かが発見した新技術をコピーする方がはるかに安上がりになります」
生徒達が頷いているので、私は説明を続ける。
「コピーした方が楽だとなれば、誰も無理してまで研究しなくなるでしょう? また、偶然に何かを発見したとしても、コピーされるのを恐れてそれを秘匿する事になります。
このような状況では、新技術を研究したり普及させたりするのは、不可能になります。
ですので、せめて研究開発費の元が取れるぐらいには発見者の権利を保障し、そのために、『特許』として登録するようにします」
「先生。トッキョとして登録すると、なぜお金が研究者に回るのですか?」
「それは、トッキョ登録された技術を使う場合は、売上の一定金額を登録者に支払うように義務付けるからです。
また、勝手にコピーした場合の取り締まりも、この新設するトッキョ庁の管轄ですね」
そうやって、これらの権利の意義を広く教え、トッキョ庁の職員として雇った官僚達の教育も行いながら、私は日々を忙しく過ごしていた。