先祖返りの町作り(再調整版)
第87話 平民の味方
アルトさんと合流した私達を待っていたのは、護衛の皆さんと、アルトさんの息子さんのアレクさんだった。
「私もそろそろ、息子に後を継がせますので」
という事で、アレクさんを含めた9人で出発する事になった。
それから3日ほど旅を続け、今は中継地点のセイス村で休憩中である。
「わたくし一人だけが馬車で楽をしているのが、なんだか、とても心苦しく感じられてしまいます。皆様、本当に申し訳ありません」
ネリアが皆を気遣って謝罪する。護衛の傭兵さんの一人が、それに応える。
「気にしなくても大丈夫ですぜ。なんたって、我らが平民の味方、ガイン家のお姫様を護衛できるんでさ。傭兵にとって、これほど名誉な仕事はありませんぜ?」
私は、その意外な言葉について、質問する。
「平民の味方ですか? ガイン家は、そのように呼ばれているのですか?」
「もちろんでさ。無一文で移住しても領主様がしばらくは面倒を見てくれやすし、噂では、孤児や犯罪者にまで慈悲を与えてくださるとか」
「慈悲ですか? もしかして、孤児院や犯罪者の職業訓練所の事ですか?」
「その通りでさ」
私はそれに、否定的な意見を述べる。
「あれは、ただの慈善事業ではないのですよ。孤児や犯罪者の多くは、食べるのに困って、やむを得ず犯罪に手を染めているはずです」
私は続けて、孤児院の意義を語る。
「ですので、孤児院で孤児達を保護し、一般の領民と同じ程度の教育を施すのは、治安を良くする意味と、そうしておけば、孤児達が育った時に税金を納めてくれるようになるからです」
さらに続けて、職業訓練所の意義も語る。
「職業訓練所も同じです。常習犯や凶悪犯罪者は、終身刑にするか、極刑にするしかありません。しかし、それ以外の食うに困ったもの達であれば、手に職さえあれば、税金を納めてくれるようになりますからね」
しかし、先ほどの傭兵さんは、それでも平民の味方だと主張する。
「それでもでさ。一般的なお貴族様であれば、孤児達が飢え死にしようが、犯罪者が増えて治安が悪くなろうが、全く気にもしませんぜ」
「そんな事をすれば税収が落ちるので、結局の所、自分達が困るだけでしょうに。本当、他の貴族達は愚かですね」
「まったくでさ。あ、今の発言は、他のお貴族様には内緒にしといてくださいよ」
行商人の一行が、笑いに包まれる。
ここで、アレクさんも雑談に加わる。
「そういえば、ヒデオ様は俺達のご先祖様と仲が良かったと聞いています。気さくに話しかけてくれるので、俺も助かっています。俺も、敬語はあまり得意ではないので」
ここで、シゲルが質問する。
「そうなのですか? ひいおじい様。どのような人だったのです?」
「アレンさんという人で、とても会話の愛想が良くて、里の外の世界の話を良くしてくれました。里を初めて出た後も、とてもお世話になりました。
私の年齢から計算すると、アレクさんは、アレンさんの6代目か7代目の子孫あたりでしょうか?」
私は続けて、疑問に思っていた事を口にする。
「そういえば、アレクさん。私は不思議だったのですが、あなたの一族は、全員『ア』から始まる名前ですよね? 何か意味があるのですか?」
「たいした意味はないんですがね。何でも、初めてアルク族の里を発見したご先祖様が、そのまま取引を始めるようになって、生まれた自分の子供にアルクにちなんだ名前を付けたのが始まりだそうです。今では、ただの一族の伝統のようなものですかね」
そんな会話を楽しんだ後に就寝し、翌日、旅を再開した。