先祖返りの町作り(再調整版)
第76話 里を少し便利に
家族4人で床下の増強工事をした後、祭司長とエストとローズさんは、仲良く狩りに出かけた。
私は少し別の用事があるからと同行を断り、今は里の子供達を集めて、ある事を教えている。
順番に子供達に教えていると、祭司長が様子を見に来た。
「祭司よ。これは何を教えておるのじゃ? 伝統にはない、新しい魔法に見えるのじゃが」
「祭司長様。これは火種の魔法です。外では生活魔法と呼ばれる、ごく基本的なものです」
「それでは、この里の伝統が」
私は祭司長の主張を遮って、説得を試みる。
「祭司長様も、がすこんろの魔道具を使っていますよね? あれは便利だとは思いませんか?」
「あれは確かに便利じゃな」
「私もがすこんろを、里の皆に使って欲しいとは思っていません。ただ、火種の魔法が使えると、かまどに火を点けるのが少しだけ便利になります。
里の伝統からは少し外れるかもしれませんが、これくらいであれば、見逃してもらえませんか?」
祭司長は、腕組みをして少し考える。
「ううむ……」
「それに私は、火魔法の攻撃魔法を教えるつもりはありません。そこまで伝統を崩したくはないですし、何より、森の中で大きな火を扱うのは危険ですから。
火種の魔法だけ、黙認してくれませんか?」
祭司長はしばらく考え、黙認してくれる。
「まあ、この程度であれば、わしは見なかった事にするぞ」
「ありがとうございます。祭司長様」
保守的なこの里とはいえ、やはり子供は好奇心旺盛なようで、他にも何か便利な魔法がないかとせがまれたため、祭司長が見ていない間に、他の初級魔法も教える事にする。
そこで私は、便利な防御魔法として光盾を教え、次に光の魔道具に使われている魔法である、光球の魔法も教えた。
子供達はとても喜んでくれたので、つい調子に乗って、『うぉーたーかったー』の魔法も教えてみたが、子供の魔力では連発はできなかった。
(この子達が成長した暁には、うぉーたーかったーの魔法も連発できるでしょう。そうなれば、斧はレアアイテムではなくなるでしょうね)
私は、里の生活が少しだけ便利になった事に満足し、今回の里帰りの予定を終えた。