先祖返りの町作り(再調整版)
第75話 くーらーの運搬
明けて翌日。
私とエストが同じ小屋に泊まり、祭司長とローズさんが同じ小屋に泊まった。今は祭司長の小屋に家族4人で集合していて、祭司長とローズさんが仲良く、朝食を作っている。
そんな中、ローズさんががすこんろを見ながら疑問を口にする。
「なんだか、この家に魔道具がたくさんあるのが不思議なのですが、他の家もこのような感じなのでしょうか?」
それを聞いたエストが、クスクスと笑いながら否定する。
「そんなはずはありませんよ。これは、おじい様がご自分の母上に、せっせと貢物を献上した結果です」
そのあまりにもな表現に、私も苦笑いしながら同意する。
「貢物って、もう少しマシな表現はなかったのですか?」
続けてエストは、ローズさんに同意を求める。
「私は、おじい様の故郷や母上に対する愛情が、少し暴走しているように感じる事があるのです。ローズ。あなたもそう思いませんか?」
ローズさんは、頷きそうになった時に私と目が合い、慌てて否定する。
「私はお母様思いの、素敵な息子さんだと思いますよ」
エストは少し微笑んで、祭司長に新しい提案をする。
「ところで、ひいおばあ様。おじい様がまた新しい魔道具を作ったのですが、欲しくはありませんか?」
「何じゃと。それは、いったいどのようなものじゃ?」
新しい文明の利器を欲しがる祭司長を見て、私は、
(祭司長様もずいぶんと、私に毒されてしまいましたね)
と思った。
エストは続けて、新作魔道具の説明をする。
「レイゾウコというのですが、いつでも冷えたお酒が飲めるようになりますよ?」
「ううむ。酒は祝いの時の儀式の一つじゃからのう。そこまでして飲みたいとは思わぬな」
「では、くーらーの魔道具はいかがです? 冷たい風が吹き付けるので、夏場は快適ですよ」
それを聞いた祭司長は、少し食い付き気味に返答する。
「そ、そのような便利なものが……。それはぜひとも、欲しいものじゃな」
私はそれに、無理な理由を述べる。
「祭司長様。あれはとても重いものなので、馬車はともかくとして、荷車で運ぶのはおそらく不可能だと思います」
「そうか……。運べぬのであれば、いたしかたないのう」
しょんぼりしている祭司長を見て、私は解決策を考える。
「そうですね。では、こうしましょう。この小屋に使う程度であれば、あそこまでの出力は必要ありませんから、私が改造して小型化します。そうすれば、運べるかもしれません」
「おお。そうか! 祭司は良い子じゃな」
「祭司長様。私もとっくに成人しているのですから、いつまでも子供扱いは止めて欲しいです」
祭司長に良い子と言われたのが、なぜか嫌だった。私はこの時、その理由に全く気が付いていなかった。
エストが続けて、賛意を示す。
「それは良い考えだと思います。おじい様、私も半分お金を出すので、ぜひとも小型のくーらーを作って運搬しましょう」
私はもっと根本的な問題点を指摘する。
「ただ、もう一つ問題があります」
私は粗末な床を見ながら説明する。
「この床だと、くーらーを置くと、おそらく床が抜けてしまいます」
家族4人で床を見つめ、少し笑ってから、協力し合って床下の増強工事を行った。
まず、全員で床板の一部を取り除き、私と祭司長の母子二人で土魔法を駆使して土をできるだけ固め、その上に全員で平らな石を敷き詰めてから、床板を元に戻した。
そうやって、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
これは、それから一年後の話である。
私は、約束通りに小型化したくーらーを、行商人のアルトさんに運搬してもらった。馬車で運ぶのは問題なかったが、荷車を使って人力で引いて運ぶのは大変だった。
私も後ろから押して手伝ったのだが、無理な依頼をしてしまったと反省し、ガインの町に帰った後に、アルトさんに追加報酬を支払った。
床下の増強工事もちゃんとできていたようで、特に問題なく、くーらーは設置できた。
早速スイッチを入れて、冷風を顔に受けた祭司長は、
「う? うおおおおおおお?」
と、奇妙な雄たけびのようなものを上げて喜んでいた。
その様子を見た私は、
(やはりこの小屋だけ、家電製品で溢れてしまいましたね)
と思った。