Novels

先祖返りの町作り(再調整版)

第72話 ガリバンインサツ

 くーらーの販売開始から、1年ほどが経過した頃。

 ようやく、ガリ版印刷技術の開発が完了した。

 工房長の仕事でかなり忙しかったが、時間を作って、なんとか研究を継続していた。

 事前にアナウンスしていた通り、この新しいインサツ技術は、ガリバンインサツであると発表された。

 この技術を伝授されたインサツ工房の技術者によると、ガリバンインサツは、出版されている物語の挿絵に、まずは使われるそうだ。その後には、楽譜等にも応用される予定のようだ。

 この頃には、インク技術者によって、カラーインクの開発もかなり進んでいたため、私はそのまま、カラー印刷の方法も教えた。

 色の付いた絵が量産できると知ったインサツ技術者達は、とても驚いていた。

 相談した結果、まずは料理のレシピ本をカラーインサツして出版してみると決まった。

(やっと、印刷技術の開発目標が達成できましたね。次は、高等学校の先生達の教育を完了すれば、平民達の知識レベルを高める事ができますね)

 私の野望が、少しずつではあるが順調に達成されていく様子に、心の中でそっとほくそ笑んだ。

 またこの頃に、私はある人物に、ずっと疑問に思っていた質問をしてみた。

 あの金色の粉を直接買い付けに来ていた、三代目ルツ工房長に、なぜコピー商品を作らないのかと疑問をぶつけてみたのだ。

 三代目ルツ工房長はワイズさんという人で、私がルツ工房で働いていた時には、まだ就職していなかった人である。

「ワイズさん。私は、ルツ工房であれば、くーらー等のコピー商品が作れるはずだと、ずっと思っていたのです。

 レイゾウコの時も、ルツ工房では、最初からコピー商品開発をしていなかったようですし、もし良ければ、その理由を聞かせてはもらえませんか?」

 ワイズさんは、微笑みながら真相を語ってくれる。

「ヒデオ様。簡単な話ですよ? 我々、ルツ工房の作る商品には、あなた様の作る秘伝の粉が必須だからです。

 もちろん、工房長に代々伝わる話から、あなた様であれば、その程度で取引を停止するとは考えていません。

 しかし、それでも、私達の工房の命綱を握っているあなた様を、わざわざ挑発するようなまねは、したくなかっただけなのです」

 正直に打ち明けてくれたワイズさんと私は握手を交わし、これからも変わらぬ取引をする事を約束した。