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先祖返りの町作り(再調整版)

第71話 ラーメンとうどん

 これは、レイゾウコとくーらーの魔道具生産で、忙しくも充実した毎日を送っていた、ある日の話である。

 私は領主館の自室で、くつろいでいた。

「ふぅ……。やっぱり、冷えたビールは美味しいですね」

 この国では、麦が盛んに栽培されているためか、ビールがある。ただ、これまでは冷やす事ができなかったため、温くて私は飲まなかった。

 私も森アルク族の一員であるため、酒はたしなむ程度しか飲まない。

 それでも、お祝いの時の儀式としてしか飲まない、という訳でもなく、たまの娯楽として、飲酒を楽しむようになっていた。

(冷えたビールが飲めるようになると、シメのラーメンも、なんだか食べたくなりますね)

 そんな事をぼんやりと考え、ラーメンの再現でもしてみるかとレシピを考え始めた。

 醤油ラーメンは無理でも、塩ラーメンやとんこつラーメンなら、時間をかければ作れそうな気もする。

(でも、肝心のかんすいが、手に入らないんですよねぇ……)

 かんすいというのは、主成分が炭酸ナトリウム等のアルカリ塩水溶液の一種の化学物質で、これを麺の生地に混ぜ込む事で、強いコシが出る。

 詳しい製法までは知らないが、岩のようなものを煮込んで作るとどこかで読んだ気がする。

 そんなものを食べ物に混ぜようと思い付いた、過去の偉人は、本物の天才だと思っている。

 私は知らなかった事だが、実は木灰からでもかんすいは作れる。木や草を燃やした灰を水に溶いた上澄み液が、かんすいとなるのだ。

 私が知っていたのは、最初期に、現在の内モンゴル自治区で始まったと言われる、炭酸ナトリウムの白い鉱石を煮込んで作る方法だったのだ。

 その勘違いのため、私は次のような事を口走る。

「『ラーメン』は『コシ』が命です。『かんすい』を使わないような『ラーメン』等、断固として認める訳にはいきません!」

 もし前世の人が聞いていたら、そこまでこだわらなくてもと言いそうな宣言を一人でつぶやき、ラーメンの開発を断念する。

(では、うどんなら作れますかね?)

 そう考えを進め、すぐに否定する。

(やはり、醤油がありませんし、鰹節も手に入りません)

 私は、鰹節を開発した人も、本物の天才だと思っている。

 どう見ても木切れにしか見えない、世界一硬い発酵食品と言われる鰹節を、わざわざ薄く削って、オガクズにしか見えないようなものを最初に口に入れた人は、偉人だろう。

「『うどん』は『ダシ』が命です。『削り節』も使わないような『うどん』等、断固として認める訳にはいきません!」

 そんな、どうでもいい、くだらない宣言を再び行い、平和な日常が過ぎていった。