先祖返りの町作り(再調整版)
第60話 家族で狩り
その後、祭司長と3人の血の繋がらない家族で朝食を楽しんだ後、里の中央に集まってもらった里の皆に、エストを私の孫で、祭司長のひ孫だと紹介した。
里の皆は、新しい仲間が増えたと暖かく祝福してくれた。
そしてエストは、アレスさんが開く市での取引をしばらく見物し、今は家族の3人で森に狩りに出かけている。
「やっぱり、ひいおばあ様もすごいですね。おじい様と同じように、魔法が追尾しながら命中するなんて」
「私の魔法の先生は、あなたのひいおばあ様ですから。いえ、魔法に限りませんね。私は祭司長様に、たくさんの事を教わりましたから」
祭司長も同意する。
「そうじゃのぅ。こやつは小さい頃から質問魔じゃったからのぅ。ことあるごとに、これは何ですか? あれはなぜですか? じゃったからな」
続けてエストが質問する。
「では、おじい様がとても物知りなのは、ひいおばあ様の教育の賜物ですか?」
「その通りですね。祭司長様は、どんな質問でもいつも丁寧に答えてくれました」
そんな会話を楽しみながら、森を移動して行く。
祭司長は、ひ孫に良い所を見せようと張り切っているので、私やエストは出番がなく、見学している。
そうやって、祭司長が狩猟や採集をする様子を、二人で眺めながら雑談をする。
「ひいおばあ様。おじい様が小さい頃に、一番好きだった事は何ですか?」
「それは、間違いなく魔法じゃな」
「そんなに小さい頃から、魔法が好きだったんですか?」
「そうじゃ。例えば、初めて魔法制御の訓練方法を教えた時もひどかったからのぅ」
なんだか、また恥ずかしい暴露話が始まりそうだ。
「祭司長様。恥ずかしいので、それくらいで勘弁してください」
「私は聞きたいです。ひいおばあ様」
祭司長は、ニヤリと笑って暴露話を続ける。
「あの時はの。訓練方法を習ったばかりのこやつは、寝る暇も飯の間でさえも、時を惜しんで少しでも長く訓練しようとしおった。
見るに見かねてもう休むように言ったのじゃが、聞きはせなんだ」
どうやら、祭司長は手加減してくれないようだ。
「その後、どうしたのです?」
「やむをえぬので、すぐに休むなら魔石に魔力を込める方法を教えると言ったのじゃが、あの時は傑作じゃったな」
祭司長は、思い出し笑いをしながら、話を続ける。
「そうしたらこやつは、寝床にすっとんで行きおったわ」
祭司長とエストの二人は顔を見合わせて笑い、私の恥ずかしい話で盛り上がっている。
「私は、物腰の柔らかいおじい様しか知らないので、とても新鮮で面白いです。ひいおばあ様。もっと教えてください」
この話題、まだ続くのか。そろそろ勘弁して欲しい。
「それからもな。こやつは、魔法名を『あ』等という美意識の欠片もない、ふざけたものに変えようとしおったり、ことあるごとにわしらの目を盗んで、伝統ある魔法式を勝手に書き換えようとしおったわ」
そのまま祭司長は、私の子供の頃の評価を告げる。
「こやつは他の事であれば、とても聞き分けの良い子供じゃったのじゃが、こと魔法に関してだけは、手が付けられんほどの悪ガキじゃったな」
エストはクスクスと笑いながら、祭司長は知らないはずの、私の幼少時代の秘密を暴露し始める。
「ひいおばあ様。実はその頃には既に、おじい様は森でこっそりと、新しい魔法の実験をしていたようですよ?」
「エスト! その話はストップです!」
私は慌てて止めようとしたが、
「何じゃと? ええい、おぬしはちょっと、おとなしくしておれ」
祭司長は私を両手で制止して、続きを促す。母は強し。私には止められない。
「エスト。それはぜひとも、わしに申してみよ」
「何でも、魔法で空を飛ぼうとして、体に風を当てて浮き上がる方法をこっそり研究していたそうです。
かなり強い風にしてもだめだったので、こっそり実験するのはあきらめたらしいですよ?」
祭司長は、私をまじまじと見ながら溜息を吐いた。
「なんともはや……。わしらの目の行き届かぬ里の外に出た後なら、魔法式をいじるのも、もはややむなしと思ぉておったが、既に手遅れじゃったか……」
私の話題で盛り上がる二人を眺めながら狩りと採集を続け、恥ずかしくも楽しい時間は、あっという間に過ぎて行った。
ちなみに祭司長が頑張り過ぎて、3人では食べきれないほどの食料を調達してしまったので、家族で仲良く、里の皆におすそわけをして回った。