先祖返りの町作り(再調整版)
第59話 イベントハンドラの解説
そして翌日。起床した私は、いつもの日課の魔法を発動する。
『イベントハンドラ』
その様子を見たエストは、不思議そうな顔をして質問する。
「おじい様。それ、旅の途中でも毎朝唱えていますよね? 何かの魔法を起動しているように見えるのですが、何が起こっているのでしょうか?」
イベントハンドラの魔法は、理論的には、24時間待機させていても問題はないが、寝ている間の暴発が怖いので、寝る前にはいつも解除している。
「これは『イベントハンドラ』という、私が独自に開発したオリジナル魔法です。
これを起動しておくと、ごく小さい動作で事前に登録しておいた魔法が瞬時に発動させられるものです。見ていてください」
そう言って、私は右手の親指と薬指、そして左手の親指と薬指をくっつける。
片手では起動しないようにしているのは、やはり、暴発させないためである。
そうすると、瞬時に光盾の魔法が発動する。
この魔法、昔にガルムの都市で魔術師から購入したものだが、かなり安くてお買い得だった。
ヒム族の魔術師達は、移動途中の保険としてしか使えないと思っていたようで、私にとっては、とても便利な防御魔法になっている。
この盾は、魔法制御力が上がるほど自由に動かす事ができ、私が独自に改良を加えて、使用する魔力は増えたが防御力は上がっている。
初期状態では、魔物からの攻撃をせいぜい一発か二発までしか防御できなかったが、私の改良によって、ちょっとやそっとでは、この防御は破れないようになっている。
ちなみにこの魔法、なぜか光魔法にカテゴライズされている。
(光でどうやって防御できるのか、意味が分かりません。そこは、物理魔法ですよね?)
というツッコミは、既に済ませている。
「この魔法の良い所は、登録している魔法を何度でも、瞬時に起動できる事です」
そう言って、解除した光盾の魔法を、また、瞬時に起動して見せる。
「ただ、この魔法にも欠点はあります。非常に長い魔法式なので、頭の中で構築するだけでも大変です。エストだと、かなり頑張って詠唱しないといけないはずです」
私は説明を続ける。
「さらに、この魔法はずっと待機状態が維持されるので、ヒム族では、この魔法を起動している間は他の魔法が使えないはずです。
この里の皆であれば、複数の魔法式を同時に構築する事もできるので、あまり問題はありません。
しかし、あなたのお母様ほどの魔導士でもそれはできなかったので、おそらくヒム族では、同時に一種類しか構築できないのでしょう」
私の説明を聞いたエストは、興奮した様子で語り始める。
「すごいです! おじい様! さすが、私のおじい様です! そんな素晴らしい魔法を自分で作り上げたなんて!」
エストは続けて言った。
「おじい様。その魔法を教えていただく訳にはまいりませんか?」
「もちろん、教えますよ。ただ、とても長い魔法式なので、ガイン村の私達の館に帰ったら、ワシに魔法式を書いて渡します。この里には、紙もインクもありませんので」
そう、約束した。