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先祖返りの町作り(再調整版)

第55話 エストの成人祝い

 それからさらに数年後。エストは16歳になり、成人式を済ませた。

 エルクが剣を教え、ルースと私が魔法を教えた結果、エストはたくましく成長した。

 エストは無詠唱魔法こそ使えなかったが、私から見てもなかなか優秀な魔法制御力を持っており、かなり多彩な魔法を使いこなす、優秀な魔術師になっていた。

 ただ、ルースによく似ているためか、体つきは少し華奢だ。

 エルクのように、盾を持って真正面から魔物の突進を受け流すような事こそできなかったが、少し軽めの剣と魔物の素材でできた軽鎧を装備し、剣の腕前だけでも、いつでも優秀な傭兵になれるほどの実力を身に着けていた。

(もう少しエストの魔力が増えたら、火柱や竜巻といった、上級の範囲魔法も教えますか。それにエストになら、私のオリジナル魔法も一部解禁して教える事にしましょう)

 エストの魔法の才能に、私のまなじりは下がりっぱなしだ。

 今、エストの成人の記念旅行の出発の挨拶を行っている。

 ガイン家の家族全員が、エルクの仕事部屋である領主の執務室に集まっている。

 エストは夢をかなえるため、成人の祝いとして、私の里への旅行を強く希望した。

 大事な跡取り息子を、魔物の領域を突っ切る街道に送り込む事になるエルクは、最初はかなり難色を示したが、エストは根気強く説得し、

「おじい様と一緒で、さらに、森の隠れ里への行商人の護衛の傭兵達と一緒であれば、許可しよう」

 と、ついにエルクが折れた。

 既にガルムの都市で、行商人には連絡を取っている。アレスさんという人で、私の年齢から計算すると、おそらくは、アレンさんのひ孫辺りだろうと思っている。

 ちなみに、アレンさんは、とっくに寿命で亡くなっている。

 家族を代表して、家長のエルクがエストに語りかける。

「エスト。お前は私が教えた剣の腕と、母さんとおじい様が教えた魔法の腕を持つ、優秀な戦士として成長してくれた。私の自慢の息子だ。

 しかしそれでも、魔物の領域は何が起こるか分からない。おじい様や周囲の傭兵さん達の指示を、よく聞くようにしなさい。

 気を付けて行ってきなさい」

 エルクもすっかり貴族が板について、昔とは違う口調で話しかけた。

 続けてルースが息子を送り出す。

「もう、あなた。エストも、もう子供ではないのですから大丈夫ですよ。それに、おじい様の魔法の腕は、あなたもよく知っているでしょう?

 エスト。体に気を付けて、行ってくるのですよ」

 最後は、メイが語りかける。

「お兄様。いくらおじい様の里の女の子が、おじい様に良く似た色白の美形ぞろいだとしても、へんな女にひっかかったら、私、許しませんからね?」

 11歳になったメイは、だんだんと美しく成長している。

 綺麗な金髪を腰まで伸ばし、ルースゆずりの顔で、私のひいき目なしでもかなりの美少女だ。

 ただ、この子は、

「頭が良くて、強い人が理想のタイプです」

 と、常々公言しているのは良いのだが、その理想のタイプに兄のエストがドストライクなようで、ブラコンがこれ以上悪化しなければ良いがと思っている。

 少し前のメイとの会話は、以下のようなものだ。

「おじい様。私、プライドだけしか取り柄のない、他の貴族家には絶対に嫁ぎませんよ?」

「我が家は自由恋愛が家訓なので、全く問題ありませんよ。あなたが好きになって選んだお婿さんをいつか紹介してくれるのを、私は楽しみにしています」

「私も馬鹿ではないので、お兄様とは結婚できないのは良く理解しています。ただ、強い殿方はそれなりにいても、頭の良い殿方がなかなか見つからないのです。

 もし、この方ならと思える強い殿方がいましたら、おじい様、そのお方にお兄様と同じくらいの教育を施していただけませんか?」

「もちろん、構いません。では、メイと私で、一緒に理想の殿方を育成しましょう」

 そんな回想をしていると、エストが出発の挨拶を述べる。

「それでは、お父様、お母様、メイ。行ってまいります」