先祖返りの町作り(再調整版)
第53話 さらなる発展政策
ガイン村の学校はだんだんと評判になり、外部からの移住者も増えた。
私にとって誤算だったのは、ここで学んだ領民は基礎学力が高かったため、ガルムの都市で商人や職人になるものも増え、人口流出も起こっていた。
そのため、村の人口は若干増加したぐらいに収まっている。
分度器作りの作業を終えた私は、村を発展させる方法を、一人、工房の部屋で考える。
「やはりこの村には、ろくな就職先がない事が一番の問題なんですよね……」
職を求めて人口流出が起こるのは、この村では教育を受けたもののための就職先がないためだ。
「とりあえず、私の工房で弟子を取り、学校の先生を村で募集しますか」
とりあえずの就職先を決める。
私は自分一人で開発資金を稼ごうと考えていたが、それがそもそもの間違いである事に気付く。
為政者の仕事は、領内に金を回し、経済を発展さて税収を増やし、それを開発に回すという、好循環を生み出す事だ。
為政者自ら商売するようでは、領民の仕事を奪ってしまう。
「まずは、何か特産品を考えないといけませんね」
ぱっと浮かぶのは味噌蔵だ。
大豆を用いた輪作の実験農場もなかなか良いデータがそろって来たので、実験農場を拡張して、大豆の増産を行う事を決定する。
同時に枝豆を食べる習慣も広め、大豆の有効利用を広める事にする。ゆくゆくは、ガルムの都市でも枝豆を販売したい。
もう少し、何か大豆の有効利用がないかと考える。
「せっかく『味噌汁』が飲めるようになったのです。『豆乳』を開発して、『豆腐』も作りましょう」
豆腐を作るには、にがりが必要だ。ただ、この国には海で行う製塩業があるので、探せばにがりは手に入るだろう。
しかし工房の仕事もあるので、あまり長期出張はできないと思われるため、工房の弟子が育ってから開発を行う事とし、いったん保留にする。
「ただ、『味噌』や『豆腐』では大した税収は見込めませんから、もうちょっと、稼げる特産品を考えたいですね……」
そのまま考えを進める。
「こういう時の定番は、『リバーシ』や『トランプ』を量産して売る事です。でもこの国には、『商業ギルド』や『著作権協会』みたいなものはないんですよねぇ……」
特許等の考え方のないこの国では、リバーシ等を量産したとしても、すぐにコピーされる。
領内に鉱山でもあれば話はもっと単純だが、この辺りで簡単に手に入る資源としては、木材くらいしかない。
「ん? 木材……。そうだ、あるじゃないですか。木から作れる、もっと儲かりそうな商品が」
ひらめいた。
「『手すき和紙』を開発して、売れば良いのですよ」
手すき和紙の原料自体は、簡単に手に入る。樹齢1~2年の、繊維質な柔らかい若い木と、後は灰とノリだ。
木を蒸したり、木の皮をはいだり、川に一日さらしたり、木の皮を灰と一緒に煮込んだり、木製の棒で叩いたりする。
そうやって加工した原料にノリを加え、船と呼ばれる箱に入れてかき混ぜ、簀や桁と呼ばれる道具を使ってすいていく。
ノリとして使われるトロロアオイの代用品を探したり、和紙に向いた木を探すための研究をしたりする事は必要だろうが、少し時間をかければできるだろう。
簀や桁も、いきなり大量生産ができるようなものを作るのでなければ、小型で良いので、木工職人に発注すれば作れるはずだ。
「よし。そうと決まれば、早速研究です!」
村を発展させるための目標が決まり、私は開発を頑張る事にする。