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先祖返りの町作り(再調整版)

第46話 領主

 魔物の氾濫から、2か月ほど過ぎたある日。

 私は今、初めて入った貴族街の中にある領主館の謁見の間で跪き、黙って話を聞いている。

 あの氾濫の事を、後悔と共に思い出しながら。

 魔物の氾濫そのものは、私の活躍もあって無事に撃退した。しかし、森のかなりの部分が消失していた。

 私もすぐに消火をしていたため、大規模火災にこそならなかったが、それでもかなりの部分が焼け野原になっていた。

 その有様を目の前で見せつけられた傭兵や騎士達は、私の事を、まるで化け物を見るような目付きで見ていた。

 私はこの時初めて、祭司長の言いつけを破った事を理解し、激しく後悔した。

 都市では、私の所業がすぐに知れ渡るようになり、特徴的な耳とあいまって、「耳長の悪魔」と呼ばれるようになった。

 私は都市を歩いていても、誰にも話しかけられないようになった。

 私は、お貴族様以上の腫れもの扱いになった。

 この都市で私とまともに会話してくれるのは、団長とエルクとルースだけである。

 私の大事な親友の二人がもしいなければ、とっくに世捨て人になり、里に隠居していただろう。

 それでも、

(そろそろ、里に帰りましょうか)

 そう思い始めた頃。私の自宅前にお貴族様の立派な馬車が止まり、領主様からの出頭命令を伝えた。

 なかばヤケクソぎみに素直に従い、現在、謁見の間で官僚らしきお貴族様からのありがたいお話を聞いている。

 この先に領主様が座っているらしいのだが、下賤な平民程度では顔を見る事も許されず、ずっと頭は下げたままだ。

 語られた内容を簡単にまとめると、『いんふぇるの』の魔法式を開示する代わりに、下級貴族にしてやるというものだった。

「平民が下級とは言え正式な貴族になるのは前代未聞の事であり、ましてや、異民族を貴族にする等、本来はありえないので感謝するように」

 と言われた。

 私にとっては全くありがたくない、今回の魔物の氾濫時における論功行賞も含めた、「特別な褒美」とやらをいただいた。

 直答すら許されていなかったため、反論する事なく、黙って褒美とやらを受け取る。

 いんふぇるのの魔法は魔力をかなり大量に必要とするため、おそらくは、ヒム族の魔術師程度では、まともに起動すらできないだろうという事を黙っていたのは、せめてもの抵抗だ。

(拷問されて、無理やり魔法式を聞き出されるよりはマシですか)

 と、ぼんやり考えていた。

 下級貴族になったので、村を一つ領地としてくれるらしい。

 ガイン村という所で、ガルムの都市の近辺にある事だけが救いだった。

(それなら里の方向にも近いので、ちょくちょく里帰りできそうです)

 そして私は、ヒデオ・ウル・ガインという、下級貴族になった。

 この「ウル」というのは、英語で言う所の「of」のようなもので、ガイン村のヒデオさん、という意味になる。

 これはしばらく後で分かった事だが、このガイン村は、他の下級貴族が直接統治する村と比較するとかなり小さい村で、元々は、ガルムの都市の領主様の直轄地だったらしい。

 なりたくもないお貴族様になった私ではあったが、居心地の悪くなったこの都市から逃げるようにして、自分の領地に向かった。

 ガイン村は、特にこれといった特産品もない小さな村で、畑が広がるのどかな村だった。

 さすがに都市の貴族街のような内壁こそなかったが、それでも村の中央には、村の規模からすれば無駄に広い領主館が建っていた。

 ちなみにこの館、入った時には無人であった。

 本来なら、お手伝いをするメイドさんや、領主業務を手伝う官僚がいたらしいのだが、私には必要ないので気にしない。

 どうやら、平民上がりの異民族のお貴族様に使える等ゴメンだという事らしい。皆逃げてしまったようだ。

 特に新しい人生の目標もなかった私は、そのまま村の領主を始める事になる。

 せめてもの意趣返しに、

(少しでも村を発展させてやりましょう)

 と思いながら。