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先祖返りの町作り(再調整版)

第40話 ファイアーストーム

 それからしばらく歩くと、地形の関係で森にかなり近い距離を街道が走っているため、警戒を強める。さすがはウチの分隊のホープ。何も言わずとも、警戒してくれている。

(え? 左の3人ですか? 適当でもいいんですよ)

 しばらく警戒しながら移動していると、それらは静かに森から出て来た。

 魔狼と呼ばれる、1メートルくらいの魔物だ。群れで襲ってくる事で有名な、危険な魔物だ。こんなに人の領域の近くに出てくるのはありえないはずだが、数が多い。見えない森の中にどれだけいるのか分からない。

(マズいですね。私とエルクは何とかなったとしても、この距離ではルースが無事では済みません)

「エルク! ルースのカバーをお願いします! 死ぬ気で止めてください! ルースはもっとエルクに寄って! 私は後ろにでかい範囲魔法をぶち込みますので、抜けたのを頼みます!」

 指示を出しながら、頭の中で急いで魔法式を構築する。

『ファイアーストーム』

 直径50メートルくらいの巨大な火柱が、渦を巻きながら立ち上っている。

 この場の全員が、唖然として固まる。魔狼ですら、立ち止まっている。

 火に風で火力アップを目指して最近開発してみた、前世のラノベでは良くあるパターンの半分ネタ魔法だったが、とっさの事だったため、一般的な火柱の魔法ではなくこちらを使ってしまった。

(広範囲に影響があるでしょうね)

 そう予想してはいたが、今回の依頼の日程の関係で、実験していなかったやつだ。

 予想以上の威力に、自分で作った魔法なのに、私も絶句していた。

 すぐに我に返り、指示を出す。

「エルク! ルース! しっかりしてください! 残敵を掃討!」

 残敵の掃討を二人に任せ、私は延焼している森の消火を急ぐ。

『多重水球』

 5つの大きな水の玉が別々の位置に向けて飛んで行き、消火する。

『水槍』

 私はこちらの方角に残っていた魔狼を仕留める。

 エルクとルースのペアの連携もばっちりのようで、ほどなく全滅させた。

「うわぁ……。こりゃケシズミだよ。魔石も取れないんじゃね?」

 エルクがドン引きしながら、剣先で黒焦げの死骸をつんつんしている。

(やってしまいました……。恐怖の大魔王コースです……)

 一人で落ち込んでいると、ルースがキラキラした目で私を見ながら早口でまくしたてた。

「ヒデオすごい! すごすぎ!! もう王国最強を名乗っちゃおうよ! 私が許可するから! 何なら、世界最強でも許しちゃう!」

 なんだか尊敬のまなざしのように見えるが、怖くないのかな?

「あの魔法、『ふぁいあーすとーむ』って何て意味なの? 私にもできるようになると思う?」

 恐れられていない様子に、胸を無でおろした。

「あれは私の故郷に伝わる、秘伝の切り札なんですよ。たぶんこの辺りでは、魔法式が手に入らないと思いますよ?」

 大嘘をつく。

(プログラミング言語技術を駆使した、オリジナル魔法です)

 とは、とても言えない。

 その後、若干おびえたように黙って護衛任務をする左側の三人を見て、

(失敗しました……)

 と思いつつも、全く恐れないエルクとルースを見て、心の平穏を取り戻しながら移動する。