先祖返りの町作り(再調整版)
第39話 エルクとルース
私の分隊の3人は、今、馬車の右側に順番に並んでいる。前方がルース、真ん中にエルク、後ろに私である。
なぜこの隊列にしたかというと、魔物の襲撃への対処のためである。今歩いている街道は魔物の領域との境界線に近く、右手には自由国境地帯の森が広がっている。
魔物の領域では魔物の襲撃が多いが、盗賊等はめったに出ない。人の領域では逆である。この周辺地域では最近盗賊が出たという情報はないため、この混成パーティーの主力全員を、魔物の警戒のために右側に集めている。
左側の3人もこの配置の意味を分かっているようだが、楽ができてちょうど良いと思っているらしく、だらだらと歩いている。
失礼なようだが、彼らに連携はあまり期待していない。
期待しているのは、万が一左側から盗賊が襲撃して来た時、各個に対応して時間を稼いでもらい、エルクとルースの連携で敵を削ってもらう。
「なー、ヒデオー。がすこんろの魔道具開発したのって、お前って本当?」
きびきびと歩くエルクが、歩調と一致しないのんびりとした口調で雑談を開始する。
この辺りは少し森から距離があるため、魔物の2~3匹出てきてもルースの魔法で余裕で全滅されられるため、警戒を緩めているようだ。
「どうしたんです? 急にそんな事聞いて」
「いや、酒場でウチの分隊のゲトがさー。ついに手に入れたって自慢してたんだよ。そしたら、お前らのとこの隊長が作ったもんらしいぜ、って言ったやつがいたんだよ。マジ?」
「本当ですよ」
「じゃあ、傭兵になった時には、もう金持ちだったってのは?」
「否定できませんね」
「金持ってんのに、何で傭兵?」
ここで、ルースが会話を止めた。
「エルク。マナー違反」
指でばってんを作る仕草が、妙にかわいらしい。
傭兵に過去の詮索をするのは、確かにマナー違反である。
私は苦笑しながら答える。
「別に隠している訳ではないのでかまいませんよ。そうですね。冒険がしたかったから、というのが、一番の理由でしょうか」
「冒険? なら、冒険者になればいいじゃん。金あるんだから、発掘もできるだろし」
「腕試しと旅がしたかったんですよ」
「腕試しねぇ……。それって必要?」
ルースが雑談に加わる。
「うん。私も必要ないと思う。ヒデオ、強過ぎ。こないだの一角熊の時はすごかった」
3人でのんびり会話を楽しむ。
こないだの一角熊というのは、ガルムの都市周辺でこの3人で狩りをした時、一角熊に横から奇襲された時の話だ。
ルースをカバーしたエルクだったが、無理やり体をねじ込んだため、体勢が崩れていた。ルースもしりもちをついており、危ないと思った私が、多重水槍の魔法で仕留めたものだ。
位置取りの関係で、右側から回り込むようにして一角熊の頭に命中させた場面だ。
「あれなぁ……。魔法って、あんなに曲がるもんなんだな。ルース、ちなみにあれって、どのくらいすごいの?」
「ちょっと、想像できないレベル。私は、ヒデオが王国最強の魔導士って言われても納得するよ?」
「ルースだって、ものすごい魔導士じゃん。今は無理でも、いつかできるんじゃない?」
「ダメ。ムリ。同じ『多重水槍』の魔法かどうかさえあやしい。魔法式見せて欲しいぐらい。あれを目指しても、ムダ」
私はルースの主張に反論する。
「ルースぐらい優秀な魔導士なら、無駄って事はないと思いますよ。魔法制御の訓練を頑張れば、もっと魔法が曲げられるはずです。まだ若いんですから、練習あるのみですよ?」
「ヒデオにまだ若いって言われてもうれしくない」
ルースが振り返って、ジト目を向ける。
(うーん。魔法制御訓練の上級編でも教えますか。ルースの制御力なら、上級編でもやれそうです)
ジト目の表情もなんだかかわいらしくて、思わずドキっとしそうになる。
「では、こうしましょう。この仕事が無事に終わってガルムの都市に帰ったら、ご褒美として、私の育ての親から教えてもらった魔法制御の訓練方法を伝授しますよ」
「わぁ、ホントに? ウソじゃない?」
ルースが笑顔になって、確認を取る。
「本当ですよ。約束します。私の自宅に招待しますから、そこで教えます。エルクも一緒にどうです? 私の手料理で良ければ、ごちそうしますよ?」
「お。行く行く。そういやヒデオの家って、行った事なかったな」
「お金持ちの家って、私も見てみたい」
そう言った後、ルースは少し首を傾げる。
「あれ? 育ての親って、ヒデオ孤児なの? 何でお金持ち?」
続けてルースが話す。
「あ……。マナー違反。ゴメンナサイ」
「そんなに気にしなくて良いですよ。孤児ではなかったんですが、ちょっと特殊な生い立ちでして。ただ、これ以上の詮索はダメですよ?」