先祖返りの町作り(再調整版)
第32話 がすブランド
そろそろ売れる新商品が欲しいなと思い、研究素材にしようと従来商品を眺めている。今、私が見ているのは、一般的な火の魔道具である。
「やっぱりこれ、火が大きいのが問題なんですよね……」
この魔道具は、かまどの中に入れて使う。ある程度の火力調整ができる事から、定期的に売れる定番商品だ。
しかし、大きな火を扱うため、火力調整を行うのは少し危険な上、いちいちかまどの中に手が届くまで腰をかがめなくてはならず、前世を知っている私にはとても使いにくい。
(せめて、火力調整のボタンだけでも外部に来るようにしますか?)
と一瞬考え、すぐに没にした。
実現できない事はないが、本体から長く伸びる銀線を利用したらコストがとんでもない。
しばらくうなりながら考え、前世のシステムキッチンを思い出す。
(いっその事、システムキッチンごと開発しますか? いや、ダメですね。あれの形では、火の魔道具の火力は強過ぎます。
火球の魔法でも、魔力を調整すれば火を小さくもできますが、魔力消費量に比べて効率が悪過ぎます。
小さな火種の魔法の火力を上げても、それは同じです)
「ん? 待ってください……。火種。そうか。火種です!」
ひらめいた。
かまどを使って調理するというのが、そもそも思い込みだ。そこにこだわらなければ、最適な形はすぐに分かる。
そう。ガスコンロだ。
調理するための火も、何も火種一つに限定する事はない。ガスコンロのように、小さな火種を円周上に並べれば良い。
完全に同時に火種を発動させるのは原理上無理だが、ループ文を使って、位置を調整しながら逐次処理で発動すれば良い。その程度のタイムラグ等、誤差の範囲だ。
この方式の良い所は、従来の火の魔道具に比べて火と鍋との距離が近くなるため、小さな火力で良く、魔力消費の効率がかなり改善される。つまりは、安くなる。
火力調整機能については、理想はダイヤル式やスライダー式のような無段階設定だが、現在の火の魔道具のようなボタン式で十分だろう。
火種の魔法の魔法式には、発生した火を維持する機能はあっても、途中から火力を調整するようなものはないが、これは、現在の火の魔道具の火力調整のプログラムコードが、ほぼ無修正で応用できるだろう。
ボタンのコストについては、従来品と同じボタン数にすればコスト上昇は起きない。
理想は持ち運びができるカセットコンロだが、ざっと頭の中で設計した限りでは、おそらくは、重たいガスコンロぐらいには収まる。
「よし、親方に提案しましょう」
私の説明を受けた親方は、
「お前の発明品にしては珍しく、最初から突っ込みどころがないな」
と絶賛された。
(それって、ほめられてます?)
それから数か月の試作期間を経て発売された「がすこんろ」(私にネーミングセンスを期待してはいけない)は、かまどよりはるかに省スペースなのに、火が小さくて安全で扱いやすいと絶賛された。
何より、火の魔道具とかまどの機能が統合されたのが大好評だった。
その後しばらくして発売された、「がすおーぶん」と共にルツ工房の主力商品となり、これらの商品はがすブランドと呼ばれた。
(ガスは全然関係ありませんけどね)
心の中でツッコミを入れる。
ただ、これらは良くでき過ぎていたため、だんだんと従来の火の魔道具を駆逐して行き、定番商品を奪われた同業他社の恨みを集めた。
他の工房の中には、がすこんろを分解してコピー商品を作った所もあったが、かなり巨大なものになったため、がすこんろの売りである省スペース機能が再現できず、ほとんど売れなかったようだ。